6-166 させるか!
カチン、ジュル、シャッ。
「カァァァァァァァ!」 ヒョエェェェェ!
平良の烏、絶叫。
マズイ拙い、ま・ず・い! このままでは、噛み殺される。逃げなければ、使わしめたちに。そうなれば、しかし・・・・・・。どちらに転んでも、終わりだ。
「どうし」
うっ、るさぁぁぁいっ!
「なっ!!!!」
今すぐ、引く。霧雲山へ戻る。国つ神、使わしめ。隠や妖怪、神に仕える者ら。敵に回せば、山を守れなくなる。霧雲山を守るのが祝辺の守。守れなくなれば、この地は滅ぶ。
皆さま。落ち着いて、良くお考えください。あの引き籠もり、コホン。山守神たった一柱で、霧雲山と統べる地を守れると?
一度なら、統べる地は何とか。二度なら、共倒れ。霧雲山が崩れ、多くの命を飲み込むでしょう。統べる地は乱れ、奪い合い、滅ぶでしょう。
我らは隠、祝辺の守。一塊になって、当たらねば。人の守では叶わない事を為すため、力を尽くす。違いますか?
「しか」
引く。続けぇぇ!
カッと見開き、二柱に平伏す。後退り、社の外へ。それからサッと飛び立ち、釜戸山を一回り。五羽、仲良く? 霧雲山へ。
「祝辺は引いた。武田も、引け。」
釜戸社の祝、エイ。逸早く立ち直り、ズバッと切り出す。
「しかっ、・・・・・・ぐるじぃ。」
鴫山神の使わしめ、マイ。紫の目をした、二岐の白い蛇。社の司クアを、ギリギリと締め上げた。
守っていたのでは無く、逃がさないように絡みついていたのだ。
一つ頭でスリスリ、ベロン。もう一つの頭で、ペコリ。
「マイさま。その、そろそろ。」
エイが、恐る恐る。
「オヤまぁ、御見苦しいモノを。平に、平に。」
マイの蜷局の中で、クアが白目をむいて、泡を吹いていた。
エイは大きな布の向こうにいるので、クアの姿は見えない。それでも見える。何かを締め上げた。で、聞こえた。あの声は鴫山の、社の司に違い無い。
言の葉を濁らせていた。さぞ苦しかろうと、止めに入った。優しい娘である。
鴫山神。争いを好む武田を疎み、関わらず、傍で御覧じ合わすのみ。
使わしめマイ。呪いの生け贄にされ、頭を擣ち割られた。生まれ変わる時、二岐に。闇に飲まれる事なく、妖怪となった。
鴫山の祝は代代、先見の力を生まれ持つ。稀に、守りの力を持つ子が生まれる。その一人が、マルの祖母。
ハッキリ言おう。神、使わしめ、祝。揃って、人嫌い。にも拘わらず、攫われた祝女の孫、マルが掴んだ幸せを守ろうと。
武田は、闇の力を欲している。戦を仕掛け、勝つために。させるか! というコトで、マイが送り込まれた。
社の司クアは、守られて居たのでは無い。捕らわれ、引かれ、見張られていたダケ。そうとは知らず、守られているとウキウキ。
・・・・・・憐れだ。




