6-164 後悔先に立たず
祝辺の守は、山守神を支える柱に過ぎない。霧雲山の統べる地を守るために、霧雲山を守る事で、力を尽くす影である。
死して猶、強い力を保ち持つのは、隠だから。
中には崇め祀られる事で、神となる隠も。しかし、祝辺の守は違う。崇められてはいるが、祀られてはいない。
人の守は、人に寄り添う。隠の守は、力を揮い、山を守る。霧雲山さえ守れれば、それで。
隠の守が中つ国に留まるのは、人の守に出来ない事を。生け贄になり、闇に飲まれた人の魂を鎮める。そのためだけに、隠として生かされているのだ。
・・・・・・忘れていた。
「釜戸神。我の愛し子を、奪うか。」
「まさか!」
「我とて同じ。神の愛し子を奪うなど、有り得ぬ。」
釜戸神、大蛇神。二柱の怒りが、ビシビシ伝わる。
「良山にも、石積みの社があります。マルが望めば、学ばせましょう。オロチ様、それで宜しいでしょうか。」
「フム、許す。」
「学ぶなら、こちらで。」
エイが明るい声で、にこやかに言った。
「なっ!」
隠の守、大慌て。
保護者と隠神が、渡さないと宣言。釜戸社の祝が、それを認めた。守の出る幕では無い。
それにエイは、釜戸神の愛し子。マルは、大蛇神の愛し子。二人も愛し子を傷つける、なんてコトになれば・・・・・・。
カチン、ジュル、シャッ。
ほんの少し、考え込んだだけ。なのに気付けば、使わしめに囲まれていた。
蛙と蛇は、舌ベロン。犬と狐は、ジュルリ。鼈は、お口をカチカチ。猫は爪を出し、ニヤァ。鷹、鷲、梟の猛禽三兄弟? 嘴ピッカァァ。他にもイロイロ。
平良の烏から抜け出し、地に潜れば逃げられる。しかし、それでは平良を見捨てる事に。
飛んで逃げようにも、上には。縫うようにして突っ切り、外へ!
「クゥゥ、ウワン。」 ニゲラレルト、オモウナヨ。
社の外を守るのは、良村のノリコ。見える犬です。因みに、助犬つき。
「クッ。」
斯くなる上は、行くしか!
タッ、ガブッ。
力任せに噛みつき、降り立つ。直ぐにトコトコ、シゲの前で一度クイッ。それから、釜戸神と大蛇神の御元へ。
ピクピク虫の息だが、生きている。平良の烏をポタッと置き、外に出た。
釣り人の犬だが、早稲の生き残り。狩り人の犬には劣るが、狩りだって出来る。飛んでくる獲物を咥えるコツは、マルコから教わり、覚えた。
木の枝ポーンは、楽しみながらイロイロ鍛えられる、良い遊びなのだ。
「隠の守よ。認め受け入れれば、死なせずに済んだものを。」
「なぜ逃げた。」
・・・・・・これは、いけない。使わしめに、社の司。狩頭に、長もいる。
地が震えて、戦が始まった。風見が潜んで、退けた。化け王の才で、助かった。しかし、変わった。
なぜ、もっと早く。救えたのなら、初めから。守れたのなら、救えたのなら、なぜ?
そうして少しづつ、離れた。なのに。




