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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
早稲編
33/1622

3-1 嵐の前の静けさ

早稲の村は、よそ者に厳しい。何をしても早稲の村人にはなれず、「早稲の他所の」人と呼ばれ続ける。


呪いたくなるような環境。生き残るために、結束を強める。絶望から目を背けることなく、夢を実現するために。しかし、邪魔する者が。


早稲編、はじまります。

「ノリ、聞いたか?稲田の村から、ツウって娘が逃げたんだとよ。で、三鶴から、探せって話が来た。」


カズだ。何でも知らせてくれる、良いヤツだ。


「へぇ~。その娘、いくつだ?」


ノリコを撫でながら、何となく聞いた。


「十になったばかり。白くて、小さい。」


ケッ、よくやるよ。


「かわいそうに。あの村長、ぶっ飛んでるから。」


ありゃ、ケダモノだ。


「ココに来る前に、見つけてやらねぇとな。」


「タツも同じこと言ってたぜ。」


やだねぇ~。


「でさ、アイツ、嫌がるイヌ連れて、何の支度もせずに飛んでったよ。」


「な、何だって?イヌは置いてけよ!雨が降る。強い雨が。」


空みりゃ、わかんだろ!タツのヤツ。許せん!


「ノリ、犬好きだもんな。」


そう、オレは犬が好きだ。犬はいい。裏切らない。必ず帰ってくる。雨が止んだら、探しに行くか、イヌを!


ずぶ濡れに濡れて、震えてるかもしれない。おなかをすかせてるだろうから、干し肉を持って行こう。


まずは、ノリコだ。走り回って疲れたろう。イイコ、イイコ。ごはんだよ、お食べ。



夜が更けるにつれ、風も雨の強くなった。イヌ、寒くないか、怯えてないか。エサは?痛いこと、されてないか。


オレは、タツが嫌いだ。アイツ、甘ったれのくせに、イヌだけじゃない、すべての犬を手荒に扱う。許せん。


犬と人は、強い絆で結ばれている。なのに、ろくにエサをやらない。泥まみれになっても、洗ってやらない。撫でもしない。



となりの村に襲われた時、母さんは、オレを守って死んだ。となりの村のヤツに殺されたんだ。生き残った父さんは、オレを連れて山奥へ逃げた。


でも、早稲の村に助けをもとめた。オレが熱を出したから。傷のせいだ。だから、早く手当てしなきゃいけなかったんだ。もし、熱を出さなければ、早稲なんか来なかった。


山のむこうの、奥にある村に行くはずだった。オレのせいだ。いや、となりの村のせいだ。


タツの母さんは、殺されちまったオレの母さんに、なんとなく似ていた。だから、よく話しかけた。


嫌な思いをしているのに、いつも笑ってた。五つだったオレには、何も出来なかった。でも、いつも笑ってくれた。なのに、タツは「もの足りない」だの、「満たされない」だの、グダグダ言って、困らせていた。



八つにもなって、周りが見えてなかった。


オレは、わかってた。早稲の村が、どういう村なのか。タツの母さんが死んで、一年そこら経って、タツは父さんに会えた。きっと、やっとの思いで会いにきてくれたんだ。なのに、タツは砂を投げて、叫んだ。


「人殺し。」


タツの父さん、泣いてた。


「守っていたはずなのに」


そう言って。



父さんが言ってた。


「『オレが早稲に逃げようなんて言ったから、何度も、何度も、何度も、何度も死なせてしまった』って、頭を抱えて、叫んでた。」


タツの父さんが、早稲の村長むらおさに殺された。


「父さん、何で助けに来ないんだ。」


信じられない!砂を投げつけたくせに。




やあ、ノリコ、おはよう。のど渇いたろう、川に行こう。よぉし、よし。イイコ、イイコ。


「ノリ、おはよう。」


「おはよう、カズ。」


「行くのか?イヌを探しに。」


「ああ、ごはんを食べたらね。とりあえず北に行く。タツは空っぽだから、谷を探そうと思うんだ。」


「ハハハ。そうだろうな。」


「カズもそう思う?」


「思う、思う。あっ、そうだ。舟を使いなよ。」


「いいの?使っても。」


「いいよ。その代わり、魚釣ってきてよ。」


「釣れるかな?」


「網で掬ってもいいよ。」


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