6-163 すっこんでろ
マルは良村に引き取られた、良村の子。・・・・・・それでも、何とか。
「我はマルに祝の力が無くとも、憑いた。」
「そっ、のような。」
「それが、愛し子。」
隠や妖怪が、人に憑く。珍しい事では無い。
蛇憑き、狗憑き、狐憑き。猫憑き、狸憑き、猿憑きなど、いろいろ。ある日、気に入った者にフイッと憑く。
憑いた者の子に、憑く事も。
持たぬ者は恐れるが、傍らで守っているだけ。悪さしたり、禍を齎す事は無い。寧ろ、それらを遠ざけている。
祝の力だって、似たようなモノ。
ある日フッと、使えるようになる者。親から子へ、受け継がれる者。持つ者が死した後、縁の者が引き継ぐコトも。
数は少ないがエイのように、神の愛し子となる人。ツウのように、神から器を授けられる人も。
それらは皆、他の祝とは違う力を持ち、中つ国を支える柱となる。
「愛し子を、霧雲山へ。」
食らいついたら、どこまでも。それが、祝辺の守。鼈もビックリ。雷が鳴らなくても、離します。
陽守神の使わしめ、丸を御覧ください。ね、ポカンとしているでしょう?
他の使わしめ、社の司、雲まで、アングリ。
「ウゥゥゥ。」 ヨイムラノコダ。
ノリコが呻る。
人の事を決めるのは、釜戸山。マルはマルコと、良山で生きる。霧雲山は、すっこんでろ!
ノリさんがオレを、シゲさんと社に行かせたのは、コイツを仕留めるためか?
外で待ってるように言われたから、中には入らない。出てきたら、噛みついてやる。
ここに集められのは、見えて聞こる人たち。
何が起こっているのか分からないのは、四人だけ。岩割の長、セキ。川田の狩頭、ゴロ。馬守の狩頭、イク。心消の忍び、影。
良村の長、シゲが見聞き出来るのは、大蛇だけ。それでも何となく、何が起こっているのか分かる。
「祝、宜しいでしょうか。」
「申せ。」
オロチ様の言の葉を聞く限り。霧雲山の祝辺の、隠の守が寄こせと。マルの力が欲しいと、繰り返し言い寄っている。違いますか?
マルは良村が引き取り、良村の子として、慈しんで育てています。
首に残っていた締め跡も、つけられた痣も全て、消えました。傷は癒え、痛みも引き、真っ直ぐ歩けます。残った傷の跡は、どうにも。しかし薄く、目立たなくなるでしょう。
良く食べ、良く動き、良く眠る。他の子とも仲良く、コロコロと良く笑います。
仔犬を飼い、命の尊さも学んでいます。出なかった言の葉も、出るように。少し吃りますが、そのうちスラスラ話せるようになるでしょう。
マルは良村の子です。
良村の子は皆、親を亡くしています。だからオレたち、良村の大人が親に代わって、慈しみ育てています。
マルだけじゃ無い、みんな良村の子です。祝の力が有ろうが無かろうが、同じなんです。
大人になって、村を出たいと言えば、『いつでも帰っておいで』と、送り出します。それまでは決して、出しません。渡しません。手放しません!
「人の考えより、神の」
隠の守は、思い違いをしている。
「守よ。いつ、神になった。」
釜戸神の、御言宣。




