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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
327/1634

6-161 子の幸せを願うなら


人だろうとおにだろうと、祝辺の守は祝。私だって、祝。それに何より、人の事なら釜戸山。


マルは良村よいむらに託すと決めた。せっかく幸せに暮らしているのに、引き離すなんて考えられない。



言の葉が出なかったのに、出るようになった。ガリガリだったのに、ふっくらしていた。育たないだろうと言われた仔犬も、大きくなっていた。目がキラキラしていた。


どう考えても、マルは良村で幸せを掴んだ。シッカリ守らなければ!




「その通り。」


釜戸神かまどのかみの使わしめ、ポコも加わる。



隠の守よ。力を求めるのは良い。しかし生けにえを求めるなら、北山と同じ。


烏を通しても、マルを奪えない事は分かる筈。たとえ見えていなくとも、祝なら分かるだろう。


なぜ、釜戸山へ。


このたびの裁き。霧雲山とは、関わりない。


祝の力を持つ者、闇に飲まれた者を集めて、人柱ひとばしらか生け贄にする気か。山守神やまもりのかみへ、差し上げるのか?





「はっ、祝辺で育てば、より幸せに。」


隠の守の声が、少し裏返った。



隠の守にも解っている。祝辺で継ぐ子として育つより、良村の子として育つ方が、幸せに暮らせるだろうと。


それでも引けない。


弱まった力を取り戻すには、強い子を迎え、祝の力を捧げなければ。霧雲山を守るためには、どうしても要る。だから、引けない!





「幾らでも言います。諦めなさい。」


エイがハッキリ、静かに言い切る。



裁きが始まる、ずっと前。谷河の狩り人に見つけられたマルは、釜戸社かまどのやしろに留め置かれた。


来る時にノリに会い、迎えに来てもらえると信じ、待っていた。つまり来る前から、良村に引き取られると決まっていたのだ。


日に日に衰え、食べられなくなった。汁物も受け付けず、水を飲むのがやっと。そんな子が駆け出した。迎えに来たノリに抱きつき、離れようとしなかった。そう聞いている。


マルの幸せを願い、良村に託した。マルは良村の子。大人になるまで、良村で育つ。そののち、残るか出るか。決めるのはマル。





「良村の子は、良村で育てる。子の幸せを願うなら、引け。」


シゲが燃えるような目をして、言った。



話し合いにより、北山から救われた者、全て。受け入れ先が決まった。


どんなに遠くとも、ゆかりのある者へ。縁の者が居らぬ者は、縁のある地へ。闇に飲まれた者は清められ、社へ。







「マルには、祝の力がある筈。」


隠の守は、まだ諦められない。


「力が有ろうが無かろうが、祝辺には関わりない。」


エイが冷たく、言い放つ。


「良村には、社が無い。」


守よ、まだ言うか。



祝辺の守は、霧雲山を。山守神は、霧雲山が統べる地を守り、治める。なのに近ごろ、祝の力が弱まっている。


思い起こせば、地が震えた辺り。食べ物が燃え、冬なのにいくさが始まった。多くの命が奪われ、多くの人が苦しんだ。


霧雲山だって、食べ物を出した。しかし、戦を止められた筈だと。


祝辺の守とて、祝。神が望まれぬ事など、決して。・・・・・・動けなかったのだ。




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