6-159 ハイ、外れ
もう、何なの。いくら酷い目に遭ったからって! 子よ、子。嬰児、赤ちゃん! 捨て置け? 生け贄に捧げろ?
もぉぉ、怒った。
同じ目に合わせるだけじゃ、足りない。知ってるんだからね、聞いたんだからね。隠したって、隠せないんだからね。
「見えるか。」
「はぁ?」
「答えよ。それぞれ目の前に、どなたが、いらっしゃる。」
・・・・・・。
「覡の娘よ、答えよ。」
「蛇神様が御坐すわ。美しく澄んだ、大きくて黒い目で私を見つめて。『我を信じよ』って。」
ハイ、外れ。
前に居るのは、猫です。蔦神の使わしめ、ミャアです。大きくて黒い目をした、ニャンコです。
因みに、蛇神様。赤い目をした、白い大蛇ですヨ。プカプカ浮いて御出でです。
そうそう。今の、牙滝神。大きくて黒い目をした、白い蛇です。牙滝社に、いらっしゃいますよ。
あの、聞こえますか? ニャンコの声、届いていますか?
「覡の娘よ。もう一度、聞こう。」
「だから、蛇神様よ。黒い目で、実った稲穂のような御姿をした、美しい蛇さま。『気にするな』ですって。」
見えないなら、見えないと。聞こえないなら、聞こえないと言えば良いのに。ハァ。じゃあ、次。
「覡の力を持つ、祝の子よ。答えよ。」
「何を。」
「目の前に、どなたが、いらっしゃる。」
・・・・・・。
「答えよ。」
「どこかの社の、使わしめでしょう。白く輝く、大きな犲さまが。火のような赤い目で、私を見つめて御出でです。『怯えるな』と。」
ハイ、外れ。
前に居るのは、鶴です。三鶴神の使わしめ、ハツです。白くて大きな鳥です。
因みに、狗。確かに、いらっしゃいますよ。アナタの後ろに。お狗さまの愛し子に言えないコト、しましたね。それはもう、御怒りです。
あの、聞こえますか? 鶴の声、届いていますか?
「覡の力を持つ、祝の子よ。もう一度、聞こう。」
「白くて大きな、犲さまだ。赤い目で、見つめて御出でだ。『胸を張れ』と。」
あぁら、まっ。見えてないし、聞こえてない。ミャアさまもハツさまも、呆れて御出でだわ。
「良く、分かった。仕置を言い渡す。釜戸の仕置場にて、立てなくなるまで打ち付け、痣だらけにする。其の後、火口へ飛び込め。」
「嫌よ! 蛇神様、お助けください!」
「御願いします。お助けください、蛇神様。」
・・・・・・。茅野神の使わしめ、ヤノ。アングリ。因みに、お狐さまです。
「断る。」
「聞こえた! 『断る』って。」
ソウデスネ。
「仕置場へ。」
「嫌ぁぁぁぁ!」
「離せぇぇぇ!」
釜戸社の祝、エイ。ドッと疲れて、グッタリ。ソッと差し入れられた出で湯団子を、幸せそうにモグモグ。
もう一踏ん張り、ね。




