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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
324/1634

6-158 妹よ


子が身投げするまで、苦しめたんだ。死にたくなるまで、虐げたんだ。タダで済むと思うなよ。


子は宝だ。その宝を傷つけ、闇に飲ませようなど。それでも親か!




「私はおかんなぎの娘。神の声が聞こえるのよ。」


神はおっしゃった。『生まれた嬰児みどりごを捨て置け。三つになっても祝の力が出なければ闇に飲ませ、生けにえとして捧げよ』と。


私はめかんなぎとして、神のおおせに従っただけ。



「同じだ。巫の子として、神の仰せに従ったのだ。」


神は仰った。『生まれた子に、祝の力など無い。捨て置け。三つまで育てば闇に飲ませ、生け贄として我に捧げよ』と。


私は巫と祝人の子。祝の力は無いが、覡の力を持って生まれた。





・・・・・・?


雲だって好いた人と契り、添い遂げる。子が生まれて、親になる事だって。まぁ、オレは独り身。子も無い。ってかコイツら、揃って何を言っている。


神は生け贄など、求められない。巫や覡の思い込みだ。


其れより何よりオマエら! 見えない聞こえないって、知られてるんだぞ。知れ渡ってるんだぞ。


もし見えているなら、腰を抜かすハズ。もし聞こえるなら、逃げ出すハズだ。





・・・・・・?


雲の慌て方からして、荒ぶられて御出でか。


やまとの神は、穏やかだ。トンデモナイ何かが起こらない限り、御怒りには。オレに見えるのは、オロチ様だけ。


幸い、社の司が集まっている。それに、ここは釜戸社かまどのやしろ。力を持つ人が多い。とはいえ、何とも。





「神の声なのか?」


「違うと思うぞ。」


イクにもシゲにも見えないし、聞こえない。しかしおになら、身近に感じている。



良村よいむらには蛇神、馬守には狗神が御坐おわす。慎ましやかというか、控え目というか・・・・・・。


良山よいやまにも馬守にも、生け贄を欲しがる神など、一柱ひとはしらも。




「オレは狩り人で、祝の力なんて無い。」


だから見えないし、聞こえない。けどな。ここに集まった社の司たちを見る限り、神は御怒りなのだろう。


見聞き出来る人が揃って、怯えている。いや慌てている。どうなんだい?


分からんが、生まれた子を捨て置け? 嬰児は、一人じゃ生きられない。誰かが育てた筈だ。でなけりゃ、三つまで育たない。





「ゴロの言う通り。で、その。外れてほしいが、そこの二人の子。育てた人は、もう・・・・・・。」


イクと同じ事を、多くの人が思った。



見る限り、ここに攫われた人は居ない。という事は、そういう事になる。


乳が出なければ、嬰児は育てられない。子を産まなければ、乳は出ない。三つまで育て、取り上げられた。でなければ、死んでしまったか。



「この二人の子を育てたのは、玉置の国。宝玉社たかたまのやしろの祝女、サヤ。産んだ子は死んでしまったが、この子は生きていると言って、慈しんで育てた。」


ケロがトクを見つめながら、静かに語った。




「サヤ・・・・・・。その子はね、幸せに暮らしているよ。ミヨと仲良く、遊んでいたよ。」


トクが微笑みながら、優しく語りかけた。


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