6-158 妹よ
子が身投げするまで、苦しめたんだ。死にたくなるまで、虐げたんだ。タダで済むと思うなよ。
子は宝だ。その宝を傷つけ、闇に飲ませようなど。それでも親か!
「私は覡の娘。神の声が聞こえるのよ。」
神は仰った。『生まれた嬰児を捨て置け。三つになっても祝の力が出なければ闇に飲ませ、生け贄として捧げよ』と。
私は巫として、神の仰せに従っただけ。
「同じだ。巫の子として、神の仰せに従ったのだ。」
神は仰った。『生まれた子に、祝の力など無い。捨て置け。三つまで育てば闇に飲ませ、生け贄として我に捧げよ』と。
私は巫と祝人の子。祝の力は無いが、覡の力を持って生まれた。
・・・・・・?
雲だって好いた人と契り、添い遂げる。子が生まれて、親になる事だって。まぁ、オレは独り身。子も無い。ってかコイツら、揃って何を言っている。
神は生け贄など、求められない。巫や覡の思い込みだ。
其れより何よりオマエら! 見えない聞こえないって、知られてるんだぞ。知れ渡ってるんだぞ。
もし見えているなら、腰を抜かすハズ。もし聞こえるなら、逃げ出すハズだ。
・・・・・・?
雲の慌て方からして、荒ぶられて御出でか。
やまとの神は、穏やかだ。トンデモナイ何かが起こらない限り、御怒りには。オレに見えるのは、オロチ様だけ。
幸い、社の司が集まっている。それに、ここは釜戸社。力を持つ人が多い。とはいえ、何とも。
「神の声なのか?」
「違うと思うぞ。」
イクにもシゲにも見えないし、聞こえない。しかし隠なら、身近に感じている。
良村には蛇神、馬守には狗神が御坐す。慎ましやかというか、控え目というか・・・・・・。
良山にも馬守にも、生け贄を欲しがる神など、一柱も。
「オレは狩り人で、祝の力なんて無い。」
だから見えないし、聞こえない。けどな。ここに集まった社の司たちを見る限り、神は御怒りなのだろう。
見聞き出来る人が揃って、怯えている。いや慌てている。どうなんだい?
分からんが、生まれた子を捨て置け? 嬰児は、一人じゃ生きられない。誰かが育てた筈だ。でなけりゃ、三つまで育たない。
「ゴロの言う通り。で、その。外れてほしいが、そこの二人の子。育てた人は、もう・・・・・・。」
イクと同じ事を、多くの人が思った。
見る限り、ここに攫われた人は居ない。という事は、そういう事になる。
乳が出なければ、嬰児は育てられない。子を産まなければ、乳は出ない。三つまで育て、取り上げられた。でなければ、死んでしまったか。
「この二人の子を育てたのは、玉置の国。宝玉社の祝女、サヤ。産んだ子は死んでしまったが、この子は生きていると言って、慈しんで育てた。」
ケロがトクを見つめながら、静かに語った。
「サヤ・・・・・・。その子はね、幸せに暮らしているよ。ミヨと仲良く、遊んでいたよ。」
トクが微笑みながら、優しく語りかけた。




