6-155 譬え人は騙せても
「何を待てと。」
「良く考えなさい。子の気が短いのは、止むを得ない。しかし、祝なら。ここまで言えば、解るね?」
・・・・・・? 一同、ポカン。
確かに、子だ。だから、どうした。
子だが、釜戸社の祝。これまでシッカリ、務めを果たしている。これからだって、変わらない。
「北山の地において、社の司でありながら、多くの命を奪った。よって、死をもって償わせる。北山のケイ。その命でもって、贖え。」
「嫌だ、断る。考え直せ!」
「・・・・・・命を奪えば、命で贖う。」
「それは違う。命は神から与えられた、貴いもの。人がドウコウする? 有り得ない。」
・・・・・・ハァ?
コイツ、何を言ってやがる。
祝を、祝の子を攫ったくせに。耶万の毒で、壊したくせに。力を持つ子を産ませるために、物扱い、したくせに!
「そもそも、オレは悪くない。」
死んでたまるか! 釜戸の祝は、子だ。なんとでも。そうさ。言い包めるくらい、軽い軽い。
「耶万の夢、いや毒を使って、多くの人を。全て明らかになり、証もある。逃れられない。」
「そんなモノ、当てにナラナイ。」
大人の言うコトは、聞いておけ。オトナシク良い子にしていれば、それでイイんだよ。フッ。
「祝。宜しいでしょうか。」
雲が堪らず、申し上げる。
「申せ。」
エイの声が少し、柔らかくなった。
「北山のケイ。逃げるな、受け入れろ。」
ここにはな、隠が多いんだ。
オマエに守りたい人を奪われたり、命を奪われた人たちが死んで、隠に。そういう人たちは、生まれ育った地を守る。
ここまで言えば、分かるだろう? 態態、釜戸山まで御越しくださったんだ。
オマエには見えないだろうが、使わしめ。同じ神に仕えた、隠や妖怪。集まったのは、人だけじゃナイんだよ。
見えない、聞こえない。だから怖くないし、恐ろしくも、ないんだろう。けど見える、聞こえる人たちはなぁ。
ハッキリ言おう。怖いんだよ、恐ろしいんだよ。
何で分からないんだ。こんなにもピリピリしているのに。こんなりも重苦しいのに。
守りたい人が、いなくなる。攫われて、奪われる。あちこち探し回って、あちこち頼み回って。それでも見つからない。
きっと、どこかで待っている。きっと、どこかで生きている。そう信じて、決して諦めず、来る日も来る日も、探し続ける。
釜戸社から人が来て、やっとだ。
手掛かりを求めて、北山へ飛ぶ。なのに入れない、近づけない。となれば、だ。考えられるのは、唯一つ。北山社が、深く関わっている。
北山神が御坐せば、御頼み申し上げる。しかし、御隠れに。なら、どうする。
隠の世や妖怪の墓場があれば、そこから行ける。でも、どちらも無い。牙滝社を頼っても、どうにも。
「だっ、から、何を言っている。」
「だ・か・ら、逃げるな。受け入れろ。」
雲は思わず、顳顬を押さえた。
「耶万の毒とか、闇とか。知らん、知らんぞ!」
ドンガラ、ビッシャァァァァン! グラグラグラァァァ。ビリビリビリィィィィ。




