6-150 な、何の話だ
「終わったかい? ・・・・・・ゴハッ。」
北山のケイは、川田の狩頭、ゴロに殴り飛ばされた。
「オイ、何だオマエ。社の司ってのは、清らな筈だ。それとも北山のは皆、こんなか。」
ここは霧雲山の統べる地。早稲じゃ無い。それなのに、早稲と同じ事をした。
聞いていなかったのか、妹を奪われた兄の話を。
死に物狂いで戦って、やっと見つけた時には、手遅れだった。その悲しみ、苦しみ。
同じ思いをしなけりゃ、深いトコまで解らない。でもな、分かるだろう。人ならさ!
「分からないなら、人じゃ無いぜ。」
ケイはゴロを睨んだまま、黙り込んだ。
エイは心の中で叫んだ。『もっと、やっちゃえ』と。
もう、酷すぎる。トクとシゲの話を聞いて、『終わったかい』って。良く言えるね。
私は六つに、なったばかり。でも分かる。好きでもない男の人に、薬でオカシクなった男の人に。そんなの、嫌! 大人でしょ。十の子が勝てっこ無い。
調べによると、男の子を脅して、女の子が逃げられないように、押さえさせた。
怖いよ恐い。父さまも伯母さんもササも、とっても怒ってた。
祝の力はね、守るためにあるの。なのに社を挙げて、悪い事に使うなんて。攫った人を隠すなんて。信じられない!
神、使わしめ。隠、妖怪。どんなに探しても、見つから無い。見つかるワケない。
北山神、御隠れ遊ばしたのね。使わしめも、きっと。
あの地には、妖怪の墓場が無い。私に見破る力があれば、もっと早く救えたのに。
「祝。申し訳ありません。」
「良い。戻りなさい。」
北山の闇は深い。
神、使わしめ。加えて、祝の力が失われた。焦るのは当たり前。しかし、譬え何があろうとも、人を攫うなど許されない。考えるまでも無い。
更に。
攫った人を操るために用いられた薬は、人を壊す毒。そんな物を繰り返し飲まされ、多くの人が死んだ。歪んだ。苦しんだ。
更に更に。
女を、子を産む器として扱った。大人でも許されないのに、子にまで強いた。
幼い体では、お産に耐えられない。にも拘わらず、繰り返し繰り返し。心と体に深い傷を負い、魂が砕け散って・・・・・・。
決して元に戻らない。
薬漬けにされた人たちは皆、死を選んだ。罪の重さに耐えきれず、死を望んだ。その中には、子も。
「だぁかぁらぁ。そんな薬、知りませんよ。」
「それは無いでしょう、北山ケイさん。」
「っ、なぜ!」
ニヤァと笑いながら、男が近づく。
先までとは大違い。目を泳がせながら、とても分かりやすく慌て出す。
逃げようにも、逃げられない。
ここは釜戸社、裁きの場。両の脇には、犬と犬飼い。近くには、川田と馬守の狩頭。隣には、狩り人でもある良村の長。少し離れて、釜戸山の狩り人たち。
霧雲山からは忍びと、谷河の狩り人。天霧山からは雲。人に見えない物が見える、忍びが来ている。
「頼まれていた耶万の夢、お持ちしましたよ。」
「し、知らん。な、何の話だ。来るな、近寄るな。なぜ、こんな所に来た。」
ダラダラ汗が流れ、声が嗄れる。




