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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
316/1634

6-150 な、何の話だ


「終わったかい? ・・・・・・ゴハッ。」


北山のケイは、川田の狩頭、ゴロに殴り飛ばされた。


「オイ、何だオマエ。社の司ってのは、清らな筈だ。それとも北山のは皆、こんなか。」



ここは霧雲山の統べる地。早稲わさじゃ無い。それなのに、早稲と同じ事をした。



聞いていなかったのか、妹を奪われた兄の話を。


死に物狂いで戦って、やっと見つけた時には、手遅れだった。その悲しみ、苦しみ。


同じ思いをしなけりゃ、深いトコまで解らない。でもな、分かるだろう。人ならさ!



「分からないなら、人じゃ無いぜ。」


ケイはゴロを睨んだまま、黙り込んだ。







エイは心の中で叫んだ。『もっと、やっちゃえ』と。


もう、酷すぎる。トクとシゲの話を聞いて、『終わったかい』って。良く言えるね。



私は六つに、なったばかり。でも分かる。好きでもない男の人に、薬でオカシクなった男の人に。そんなの、嫌! 大人でしょ。十の子が勝てっこ無い。


調べによると、男の子を脅して、女の子が逃げられないように、押さえさせた。



怖いよ恐い。父さまも伯母さんもササも、とっても怒ってた。




祝の力はね、守るためにあるの。なのにやしろを挙げて、悪い事に使うなんて。攫った人を隠すなんて。信じられない!


神、使わしめ。おに、妖怪。どんなに探しても、見つから無い。見つかるワケない。



北山神きたやまのかみ、御隠れ遊ばしたのね。使わしめも、きっと。


あの地には、妖怪の墓場が無い。私に見破る力があれば、もっと早く救えたのに。







「祝。申し訳ありません。」


「良い。戻りなさい。」



北山の闇は深い。


神、使わしめ。加えて、祝の力が失われた。焦るのは当たり前。しかし、たとえ何があろうとも、人を攫うなど許されない。考えるまでも無い。



更に。


攫った人を操るために用いられた薬は、人を壊す毒。そんな物を繰り返し飲まされ、多くの人が死んだ。歪んだ。苦しんだ。



更に更に。


女を、子を産む器として扱った。大人でも許されないのに、子にまでいた。


幼い体では、お産に耐えられない。にもかかわらず、繰り返し繰り返し。心と体に深い傷を負い、魂が砕け散って・・・・・・。


決して元に戻らない。




薬漬けにされた人たちは皆、死を選んだ。罪の重さに耐えきれず、死を望んだ。その中には、子も。







「だぁかぁらぁ。そんな薬、知りませんよ。」


「それは無いでしょう、北山ケイさん。」


「っ、なぜ!」



ニヤァと笑いながら、男が近づく。


さっきまでとは大違い。目を泳がせながら、とても分かりやすく慌て出す。



逃げようにも、逃げられない。


ここは釜戸社かまどのやしろ、裁きの場。両の脇には、犬と犬飼い。近くには、川田と馬守の狩頭。隣には、狩り人でもある良村よいむらおさ。少し離れて、釜戸山の狩り人たち。


霧雲山からは忍びと、谷河の狩り人。天霧山からは雲。人に見えない物が見える、忍びが来ている。




「頼まれていた耶万やまの夢、お持ちしましたよ。」


「し、知らん。な、何の話だ。来るな、近寄るな。なぜ、こんな所に来た。」


ダラダラ汗が流れ、声がしわがれる。


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