6-149 返せ。元に戻せ!
祝女として神に仕え始めて直ぐ、いなくなった。
美しく、強い力を持っていた。手分けして探したが見つからず、狩り人を頼った。他の村や国の狩り人も、妹を探してくれた。
探して探して、探し続けた。
これだけ探して見つからないんだ、神隠しだろう。そう言われ、目の前が暗くなった。神隠し? 違う! 妹は、サヤは人に攫われたんだ。
私は諦めなかった。
祝に頭を下げ、祝の力で探してもらった。それでも見つからない。他の社を訪ね、頭を下げ、祝の力で探してもらった。それでも見つからない。
宝玉神、使わしめケロさま。隠、妖怪。方方に頭を下げ、御願い申し上げた。それでも見つからない。
しかし、分かった事もある。
サヤは神隠しに、あったんじゃ無い。人に攫われたのだ。一年、二年、三年、四年、五年かかって、やっと。
父も母も、弟も妹も死んだ。
冬に戦なんか始めやがって! オレにはサヤしか、いなかったんだ。みんな死んだが、サヤは生きている。そう信じて、探して探して。
「オマエに分かるか、ケイ。憧れていた祝女になって、社の衣を着て、嬉しそうにクルクル回って・・・・・・。」
七つで継ぐ子に、十で・・・・・・。たった十の女の子が、いきなり親と離されて、知らない男に。
子だぞ、まだ子だ。それなのに手足を押さえ付けられ、薬漬けにされた見ず知らずの男に。痛かっただろう、怖かったただろう。
泣いた筈だ。嫌がった筈だ。『止めて』って、頼んだ筈だ!
五年の間に三人産まされ、二人は死んで出たんだってな。四人目を身籠って、あの戦だ。たった一人の娘に、ひもじい思いをさせたくなくて、食べ物を。
他の誰かのじゃ無い。配られた食べ物を、我が子に与えた。それで、それだけで殺すか?
姪は話せない。話せなくなった。言の葉は出るが、話にならない。目の前で蹴り殺されたんだ、母を。
「返せ。妹を、サヤを返せ。元に戻せ!」
トクはガッと立ち上がり、ケイの胸倉を掴んで殴りかかった。
「離せ、離してくれ。」
眉間に皺を寄せ、声の限り叫ぶ。
「落ち着け。コイツを殺しても、妹は戻らない。」
「オマエに何が分かる!」
「・・・・・・オレの妹も攫われ、穢された。」
同じだよ。十で早稲の倅、ジンにな。
美しく、優しい子でな。オレは死んだ父に代わって、母と弟妹を守っていた。
ある日、狩りから戻ったら、村が襲われていた。母とセツは山に入っていて、助かった。弟と他の妹は、死んだ。殺された。
隣の村のはな、狙ってたんだ。だから攫った。母さんとセツを。
オレは直ぐに動いて、取り戻した。
なのに、助け出せたのに、次は早稲に攫われたんだ。守り切れずに深手を負って、死にかけた。死の淵から戻って直ぐ、乗り込んだよ。けど、遅かった。
好きでもない男の子を、二人産んだよ。
妹を質に取られて、言い成りになった。情けない兄さ。それでもセツには、オレしか。だから生きた、生きて戻った。
だいぶ経って、セツは重い病に罹った。
咳が止まらなくて、血を吐いて。・・・・・・弱って死んだ。残された子も、同じ病で。
「オレには残っていない。けど残ってるじゃないか、姪っ子がさ。」
シゲに諭され、トクが泣き崩れた。




