6-148 ふざけるな!
祝は、社の柱。
社の司が仕切り、禰宜が細かい事を担い、祝は寄り添い、祈りを捧げる。
隠に出来ない事をして、妖怪に出来ない事をして、人にない力を使い、暮らしと幸せを守る。
大きな力に押し潰されそうになりながら、生まれ持った定めに従う。
どんなに小さな村でも、隠れ里でも、奉り祀る。
隠は祀られれば、神になる。妖怪は認められれば、神に御仕えする。隠も妖怪も争いを嫌い、生まれ育った地を守り、全てを慈しむ。
巫や覡とは、違う生き方を強いられ、辛く苦しい試しに耐え忍び、生きる事を諦めない。そんな祝を攫った。そんな祝の子を、攫った。
欲に塗れ、力を求める。奪い、奪われ。憎み、憎まれ。渦巻く闇に飲み込まれ、心を失う。
無いものを求めるのが、人。無いなら無いで悩み考え、作れば良い。なのに頓、罪を重ねた。
珍しい力や、強い力を持つ祝や子を、躊躇う事なく、次次と攫った。
北山は、山裾の地の際にある。北川を下れば蛇川に、北川を上れば乱れ川に出る。あちこち回って噂を聞き付け、攫う祝や子を選ぶ。狙いを定め、掻っ攫い、閉じ込めた。
翼を捥がれた鳥は、飛び立つ事が出来ない。染められた布は、白くならない。割れた壺は水を湛えず、死んだ者は甦らない。
傷つき、罅割れ、砕けた魂は闇に囚われ、蠢く。声にならない叫びが、心と体を統べ、縛る。
『嫌だ』『助けて』『止めて』『許して』
祝女も祝人も、声が潰れるまで、願い続けた。それなのに、強いた。
「それが何だ。それが、どうした。」
北山のケイが叫ぶように言い、睨む。
「何だ、どうした? 解らぬか、分からぬのか。」
エイの心に、冷たい風が吹いた。
祝がいない国は、北山だけじゃ無い。東山にも、いない。玉置と川北の国から、『祝の力が弱まっている。何とかしてくれ』と、申し入れが。
北山、東山、玉置、川北。どの国も戦好き。
地が震え、備えが燃えたからと、冬なのに戦を起こした。神から見放された、隠から見捨てられた。なぜ、そう考えぬ。
神は御守りくださる。遠くから、御守りくださる。隠は常に寄り添い、大きく強い力を揮い、御守りくださる。
その神、隠に仕える祝を虐げ、弄び、死なせた。殺した。命だけでは無い。心も、魂も、壊した。
「ケイ。その醜い欲を満たすため、虐げ奪った数多の命が、今も叫び続けている。」
従えるために、薬という名の毒を飲ませた。飲まされた人は皆、苦しみ悶え、死を希う。
聞こえないか? 地を這うような呻き声が。繰り返し、繰り返し。『殺してくれ』『死なせてくれ』と。
「だから何だ。そんなモノ、オレは持ってない!」
・・・・・・。
「オレが飲ませたなら、持っている筈だ。」
・・・・・・。
「どこにある。見せろ!」
・・・・・・。
「ふざけるな!!!」
じっと耐えていた男が、泣き叫んだ。
玉置の国、宝玉社。社の司、トク。末の妹を攫われ、やっと見つかったと聞き、喜んだのに。・・・・・・殺されていた。




