6-147 北山の蛮行
「終いの裁きを始める。」
釜戸社。社の司が、重重しく言った。
甥っ子から『なぜ社の司になれたの?』と思われているシロだが、運でココまで来た訳では無い。
この度の裁き。あまりに酷すぎて、別の人のように変わってしまった。
「戦を繰り返し、気がついた時には、祝の力が消えていた。」
巫や覡はいても、祝がいない。神や使わしめ、隠などの声が届かなければ、戦に勝てない。そう考え、他の地から祝や、祝の子を攫い、集めた。
これだけでも許し難いが、更に罪を重ねた。
攫った娘が十二になると、同じく攫った男に薬を盛り、言えないような事をさせた。身籠った娘が産んだ子に、祝の力が無ければ闇に飲ませ、力を得ようとした。
「北山社。社の司、ケイ。なぜ力を求めた。」
「なぜ? 幾度も言った筈だ。長が罰を受け、死んだ。次の長が決まらず、力を求めた。それだけだ。」
巫は『祝や祝の子を攫い、子を産ませよ』と。覡は、『力の無い祝の子を闇に飲ませ、新たな力を得よ』との、神の声を聞いた。
神の求めに従うのは、当たり前の事。
そもそも。盛った薬とやらは、どこにある。あったとして、私が仕入れたと言い切れるのか。
どこの誰が、言っているのだ。居るなら直ぐ、連れて来い。
・・・・・・酷いモンだな。
巫も覡も、神の声を聞いたのか? 思い込みでは、ないのか? 北山の長が決まらないなら、狩頭に頼めば良い。北山にも、狩り人はいるだろう。
そもそも、祝に何を求めているんだ。
早稲にも、祝は居なかった。社の司が一人で、切り盛りしていた。確か東山にも、祝はいない。それでも潰れず、あるじゃないか。
それにしても、気になるな。
祝人も祝女も、穏やかで清らかな人がなる。そう聞いた。そんな人を従わせる薬、人の心を捻じ曲げる薬。
・・・・・・耶万と、繋がっている?
「それだけ。で、済ませられるとでも?」
「子には、難しいか?」
「解らぬ。解るように、纏めよ。」
オイオイ、北山の。アンタ、神に仕えてるんだよな。隠や妖怪、見えてるんだよな。
マズイぜ。ピリピリしているのに、気付かないのかよ。うわぁぁ、天霧山に帰りたい。
離れに御坐す蛇神様、九尾の黒狐さま。どちらも激しく、御怒りだ。それに何より、隠が多すぎる。
人の隠は、守る地から動かない。なのに、ここに。ってコトは、この隠たち。
頼むから、気を確かに持て。神の使いなら、闇堕ちするな。隠と違って、妖怪は戻れないぞ。神も道連れだぞ。仕える神、全て。
ザッと見る限り、良村と岩割からは、長。川田と馬守からは、狩頭。残りは、社の司。
日吉社、蔦社。宝玉社、鴫山社、飯野社。茅野社、飯田社、三鶴社。東山社、川北社。豊野社、豊井社、豊田社、添野社。
豊田の国は、他に比べて多く、攫われている。
引き取られた子は他の離れで、隠や妖怪に守られている。ここにいるのは、これから引き取られる子や、行き場の無い子など。
・・・・・・死んだ人の方が、多いんだよな。




