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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
310/1636

6-144 シリアス展開、何の其の


マルは産みの親から、贈り物を貰った。母からは守りの、父からは清めの力を。


たとえ疎まれても、慈しまれなくても、ことに大きな力を受け継いだ。それは幸せで、誉れ高い事。



良村よいむらの人は誰も、陥れようなど考えない。虐げたり、いように使おうなど、考えない。心の底から子の幸せを願い、守り慈しむ。



どこで誰から生まれたのか、そんな事は関わりない。


良村で育つ子は皆、良村の子。大人になって村を出たとしても、良村の子。何があっても、守り抜く。





「鴫山の、社の司には確か、遠見とおみの力が有ったな。」


「死んだ祝女の孫に、力が有る事は知らぬ。」



東山に攫われた祝女が産んだ子には、力が無かった。だから何もしなかった。生まれた娘が北山に攫われても、武田も東山も動かなかった。


もしマルに、守りと清めの強い力が有ると。二つも生まれ持ったと知られれば、必ず動く。とはいえ、ぐには動かない。


こっそり良山よいやまに入り、攫おうとするだろう。



武田如きが入れる程、良山は甘くない。どうせ直ぐ死ぬ。


東山も来るだろうが、おさが裁かれ死に、後を継いだのは幼子おさなご精精せいぜい、『寄こせ』と言うくらい。とはいえ、武田はヤヤコシイ。


鴫山神しぎやまのかみも使わしめも、蛇憑きを攫えばただでは済まないと知っている。しかし、愚かで弱い人は欲深く、身の程をわきまえない。




マルが北山から逃げた、祝の子だと知っている人は少ない。谷河の狩り人、釜戸社かまどのやしろに関わりのある、釜戸山の人たち。


良村が子を引き取った事を知っていても、その子に祝の力がある事までは、知られていない。


もし森川から出て来た舟に、子が乗っているのを見たとしても気にしない。探すなら、釜戸山に入ってから。





源の泉からではなく、大川から入って来た子は多い。


日吉山に引き取られた子が、五人。それぞれ、違う村に引き取られた。川田、馬守、岩割、良村に一人づつ。釣り人の村で、養い親たちと待っている。



言の葉が出ない子は、三人。どもってしまう子は、二人。言の葉は出るが、話せない子が四人。死んではいないが、生きているとは言えない、虚ろな目をした者が二人。皆、守り人の村で待っている。


受け入れ先が決まっているのは、たった一人。


言の葉が出ない子は、子の居ない家に。吃る子も、どこかに引き取られるだろう。話せない子は、運が良ければ。しかし、他は難しい。





「祝辺の守が、纏めて引き取ると。」


人柱ひとばしらか、生けにえにする気か。」



霧雲山が出しゃばっても、あの武田が諦めるとは、思えない。



釣り人の村にいる、引き取られた子らは皆、コッコの力で隠されている。


九人いる子のうち、誰に力が有るのか、見分けられない。仔犬を連れているのはマルだけだが、それでドウコウ考えないだろう。


良村には大の犬好き、ノリがいる。


ただの犬好きでは無い事は、広く知られている。引き取られた子を喜ばせようと、仔犬を与えた。そう、軽く考えるハズ。







木の枝、ポーン。


タッタッタ。ピョーン、パクッ。トタトタ。マルに撫でられ、ウットリ。再び、木の枝、ポーン。


山走りの後なのに、マルコは凄いね。




ノリコとコナツ、揃ってアングリ。


シゲとノリは、ニコニコ。御呼びが掛かるまでは、楽しく過ごせば良いと考え、見守っている。


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