6-142 聞けば聞く程
北山は戦に勝つため、強い力を欲した。
はじめは体の大きな男、上手い弓引き、狩り人。そのうち『祝の力を使って、戦えないか』と、愚かな考えに取り付かれた。
その末に辿り着いたのが、祝攫いである。
攫われた祝女は直ぐ、同じく攫われた祝人の元へ、勢いよく放り込まれる。望まぬ事をさせられて、子を宿す。そして子を産み、死ぬ。
幼ければ、お産に耐えられない。
子を産めるのは、女だけ。だから祝人が多く、生き残った。次に多いのは子だが、酷い様であった。
孕んだ祝女たちの身の回り、お産の手伝い、後片付けを請け負う。血塗れになりながら。虚ろな瞳で、黙黙と。
闇に魅せられ、魂を売り払い、生ける屍と化した。
北山社から救い出された者は皆、壊れていた。壊されていた。
祝人は、重すぎる罪に押し潰され。祝女は、物として扱われた事で砕け散り。子らは、その全てを逸らす事なく、見せられて。
先見や先読の力を持つ者は、形振り構わず逃げた。捕まっても、捕まっても、逃げ続けた。それでも捕まって、北山へ。
それから・・・・・・。
「聞けば聞く程、酷いな。」
ノリから話を聞き、ムロの話を思い出す。
『人として死ねる』と言い残し、死んだ人たち。痣だらけの体で、痛みを堪えながら逃げ出し、獣に襲われ、命を落とす。
辛いとか、苦しいとか。そんなモンじゃ無い。ガッと攫われて、強いられる。生きるため従い、悶え苦しむ。
「あぁ。」
シゲに話しながら、考える。
マル。あの小さな体に付けられた、多くの痣。足を引き摺り、苦しそうに歩く姿。真っ青な顔をして、ドロンとした目をして、牙の滝から身投げした。
オロチ様に助けられたとはいえ、痛かっただろう。苦しかっただろう。
見えない力に守られていたから、闇に飲まれなかった。隠の力でも、北山から守れなかったのか。
「マルも・・・・・・。」
考えたくは無いが、まさか。
「見たくないモノは見せられたが、直ぐに心を閉ざし、死を選んだ。」
「ではオロチ様、マルは!」
「清らかだ。」
シゲもノリも、ホッとした。
もし・・・・・・。だとすれば骨の五六本、へし折っていただろう。
朝。顔を洗って、考える。山歩き、どうしよう。
「キュゥン?」 ドウシタノ?
フフッ、撫でられちゃった。スリスリ。
「マル。我の友を引き合わせよう。コホン。我の愛し子、マルだ。こちらの黒狐が我の友、狐の泉のコッコ。」
「はじめまして、マル。」
はじめまして、コッコさん。マルです。この仔はマルコです。
「キャン。」 ハジメマシテ。
九尾の黒い狐さま。マルを守ってくださるのですね。よろしくお願いします。
「おはよう、マル。」
「おはよお、ノリさんっ。」
「ん? 狐かな、犬じゃないな。」
す、凄い。ノリの犬センサーに反応した! イヌ科だからね、狐って。




