6-139 鍍金が剥げる
聞けば聞くほど、腹が立つ。
北山は人を、祝を、何だと思っているんだ。北山に送らず岩割に託していたら、救えたのか?
・・・・・・何となく、気付いていた。それでも、早稲よりマシだろうと。
当たり前だろう。
底の底と比べて、何になる。早稲に比べれば北山も東山も、玉置だって苦しみの無い、良い所になる。
あぁ、オレは毒されていたんだ。早稲の毒に、ドップリ浸かっていた。
あの時、気付いていれば。あの時、思い切っていれば。マル、ごめんよ。もっと早く、幸せに暮らせていたんだ。
時は戻らない。
昔の事なんてキレイさっぱり、忘れさせてやる。楽しい、嬉しいで満たしてみせる。
「クゥゥ。」 オモイツメナイデ。
悪いのは、北山です。ノリさんは悪くない。
「キュゥ。」 ドウシタンダロウ。
北山の人、良く来ます。それだけ裁かれてるんですよ。
「ありがとう。イイコ、イイコ。」
「ノリ、話がある。」
頭の中に響いた。オロチ様、の声じゃナイ。
「狐の泉、黒狐だ。」
祝辺の守が動いた。
霧雲山の統べる地で暮らす、強い祝を探し始めた。祝辺へ連れ込み、競わせ、残った一人を、次の守にする気だ。
北山の事は、ずっと前から知っている。釜戸社に裁かれる事も、知っている。平良の烏に乗って、幾らか見に来るだろう。
友の話によれば、眠っていた力が目覚めたとか。
清めと守り、どちらも強いそうだな。我の力で隠すが、一人離されていれば気付かれる。アレは犬並み。狙った獲物は、決して逃さない。
乱雲山にも一人、隠されている。その娘は、野比と野呂の祝が、力を合わせて隠した。
あの山は妖怪に守られている。
そもそも、天つ神の力を授けられた子だ。祝辺の守でも、手出し出来ない。
引き込むには、どうしたものか。熊のようにウロウロしながら考えていた時、北山の裁きの事を聞いた。
それはもう、大喜び。手に入る、祝の力を持つ子が集められたのだ。奪い去ろうと考えている。
ヤツは知らんのだ、壊されていると。
救い出され、闇に飲まれず、祝の力に目覚めた子。霧雲山と結んでいない山に、託された子。その全てを満たすのは、マル一人。
マルには蛇が憑いた。蛇神だ。代替わりした、とはいえ祀られていた、蛇が憑いた。
隠は隠。他のを祓っても、障り無い。
マルは友の愛し子。良村に引き取られ、やっと幸せを掴んだ。何があっても守り抜く。もし守が手を出せば、迷わず祓うだろう。
「とはいえ、守を消すのは。」
「マルは良村の子だ。」
祝辺の守ってのは、山裾の地を見張らせていた、偉い祝だろう? マルたちが苦しめられているのも、知っていた筈だ。なのに助けず、見捨てた。
そんなのに取られて、堪るか!
人の守ってのは、霧雲山から出ない。来るのは、隠の守。同じ隠でも、オロチ様の方が強い。そうですよね。
隠も妖怪も、オレには見えない。だから狐さま。オロチ様と、マルを守ってください。
「ノリコには見える。裁きの場に、連れ行け。」
「はい。」
「ワン。」 オマカセクダサイ。
マルコにも見えるよ。ノリさん、知ってた?




