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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
303/1635

6-137 渡すもんか!


木の枝ポーン。カプッと咥え、マルの元へ。再び、木の枝ポーン。


楽しく遊ぶ、マルとマルコ。



「健やかになって、良かった。」


「そうだな。」


コノとコタが呟いた。



体中にあったあざは、残らず消えた。ガザガザだった肌は、プリプリに。骨が浮くほどガリガリで、折れるくらい細かったが、ふっくらしてきた。


マルコとの山歩きで、足腰が強くなった。良く食べ、良く遊び、良く眠る。田や畑の事、洗い物や縫物、少しづつ出来る事が増えた。他の子らも、幸せそう。



早稲わさを出て、良かった。心の底から、そう思う。


この山で暮らせるだろうか、植え付け出来るだろうか、冬を越せるだろうか。アレコレ悩んだのが、嘘のよう。


良山よいやまは冷えるから、育つまで二年ふたとせ三年みとせ。そう思っていたのに、豊かに実った。り入れまで、もう少し。みんな楽しみにしている。





「おかえりっ、シン、さん。」


「ただいま、マル。」



武田の動きが、アヤシイ。


釜戸社かまどのやしろから呼び出されれば、構えるモンだ。なのに、喜んで出向いたらしい。鴫山社しぎやまのやしろの祝、力が弱まっている。攫われた祝の子か孫に、強い力が有れば、引き取る気だ。


マルは隠される。釜戸の祝が、そう決めたんだ。良村が引き取って、育てている。見つかったとしても手出し、させない。



社へは、シゲが連れて行く。釜戸山には、ノリとノリコ。男二人に、犬二匹。マルコはマルから離れないし、オロチ様も付いている。攫われる事は無い。


何も無ければ、ぐに戻れる。始めから出る訳じゃ無い、終いの裁きに出るだけ。囚われた祝の一人として、その場にいるだけ。



「どお、したの?」


「マルのホッペ、柔らかそうだなぁって。」


マルは頬をプニッとつまんで、ニコッと笑った。つられて、シンもニッコリ。







良い子はスヤスヤ、夢の中。夜が明ければ、シゲはマルを連れて、釜戸山へ行く。



「裁きには、雲も出る。」


祝辺の守が、北山の裁きに出る。とはいえ、出るのはおにの守。祝辺の守を止められるのは、乱雲山と天霧山の祝に、雲。祝は山を出られないから、雲が出る。



心消こけしの祝が見た事を、影から聞いた。


祝辺の守は、力を持つ子を残らず引取り、競わせる。『マルも寄こせ』と、釜戸の祝に詰め寄るが、雲と狩り人が止めに入る。


その隙にノリが、マルを抱えて山を下りる。オロチ様に守られながら、大川から舟を出す。オレは残って、話し合う。


社の司、禰宜ねぎ、雲も加わり、守にマルを諦めるよう、説き伏せる。狐の泉の黒狐さまの御力で、守を縛って動けなくするから、思い悩む事は無い。それでも守は、諦めない。



「霧雲山だろうが祝辺だろうが、渡さない。」


「マルだけじゃ無い。誰一人、奪わせない。」


「そうとも。渡すもんか!」


シン、カズ、コタが次次つぎつぎと。みんな同じ。良村よいむらの子は、良村で育てる。誰が何と言おうと、守り抜く!

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