6-137 渡すもんか!
木の枝ポーン。カプッと咥え、マルの元へ。再び、木の枝ポーン。
楽しく遊ぶ、マルとマルコ。
「健やかになって、良かった。」
「そうだな。」
コノとコタが呟いた。
体中にあった痣は、残らず消えた。ガザガザだった肌は、プリプリに。骨が浮くほどガリガリで、折れるくらい細かったが、ふっくらしてきた。
マルコとの山歩きで、足腰が強くなった。良く食べ、良く遊び、良く眠る。田や畑の事、洗い物や縫物、少しづつ出来る事が増えた。他の子らも、幸せそう。
早稲を出て、良かった。心の底から、そう思う。
この山で暮らせるだろうか、植え付け出来るだろうか、冬を越せるだろうか。アレコレ悩んだのが、嘘のよう。
良山は冷えるから、育つまで二年か三年。そう思っていたのに、豊かに実った。穫り入れまで、もう少し。みんな楽しみにしている。
「おかえりっ、シン、さん。」
「ただいま、マル。」
武田の動きが、アヤシイ。
釜戸社から呼び出されれば、構えるモンだ。なのに、喜んで出向いたらしい。鴫山社の祝、力が弱まっている。攫われた祝の子か孫に、強い力が有れば、引き取る気だ。
マルは隠される。釜戸の祝が、そう決めたんだ。良村が引き取って、育てている。見つかったとしても手出し、させない。
社へは、シゲが連れて行く。釜戸山には、ノリとノリコ。男二人に、犬二匹。マルコはマルから離れないし、オロチ様も付いている。攫われる事は無い。
何も無ければ、直ぐに戻れる。始めから出る訳じゃ無い、終いの裁きに出るだけ。囚われた祝の一人として、その場にいるだけ。
「どお、したの?」
「マルのホッペ、柔らかそうだなぁって。」
マルは頬をプニッと抓んで、ニコッと笑った。つられて、シンもニッコリ。
良い子はスヤスヤ、夢の中。夜が明ければ、シゲはマルを連れて、釜戸山へ行く。
「裁きには、雲も出る。」
祝辺の守が、北山の裁きに出る。とはいえ、出るのは隠の守。祝辺の守を止められるのは、乱雲山と天霧山の祝に、雲。祝は山を出られないから、雲が出る。
心消の祝が見た事を、影から聞いた。
祝辺の守は、力を持つ子を残らず引取り、競わせる。『マルも寄こせ』と、釜戸の祝に詰め寄るが、雲と狩り人が止めに入る。
その隙にノリが、マルを抱えて山を下りる。オロチ様に守られながら、大川から舟を出す。オレは残って、話し合う。
社の司、禰宜、雲も加わり、守にマルを諦めるよう、説き伏せる。狐の泉の黒狐さまの御力で、守を縛って動けなくするから、思い悩む事は無い。それでも守は、諦めない。
「霧雲山だろうが祝辺だろうが、渡さない。」
「マルだけじゃ無い。誰一人、奪わせない。」
「そうとも。渡すもんか!」
シン、カズ、コタが次次と。みんな同じ。良村の子は、良村で育てる。誰が何と言おうと、守り抜く!




