1-3 開花
「王子、創造して下さい。試すのです。」
「試す。」
「はい。開花の才を創造しました。ほら、この通り。」
ユリを一輪。フワァと蕾が開いた。
「美しい。」
虚ろだった瞳が、輝いた。
「さあ、はじめましょう。」
何も起こらなかった。成功したのだ。才を、才だけを奪うことができる。できた。王は王子の手をとり、微笑んだ。
「もう怯えることはありません。生きて下さい。」
「私は、生きても、良いのでしょうか。」
「もちろんです。母君も、きっと。」
「あ、ありがとう。ありがとうございます。」
化け王。そう呼ばれ、嫌悪された。収集の才は呪われた才。誰も幸せに出来ない。思い込んでいた。けれど違う。美しい才だ。
化け王は決めた。王子の幸せを願って。勝手だ、わかっている。それでもどうか、私の分まで。
「隣国へ戻れるよう、手配します。」
「いいえ。このまま。」
「なぜ。なぜですか。」
信じられなかった。城とは名ばかり。美しいとはいえない塔の、牢に?
「化け王、私は感謝しているのです。どう表現すれば良いのか。それほど深く、深く感謝しています。」
王は混乱した。
「失礼ながら、王よ。まるで看守ではありませんか。その上、刑の執行まで強いられて。」
その通り。しかし。
「私には、残ることしか出来ません。どうかお側に。」
王子の名はジル。化け王の名もジル。同じ名を持つ二人は、化け王の城で暮らした。とはいえ、王子は人質。牢の中にいた。
収集の才に奪われても、才は消滅しない。死後、放たれる。才は不幸を招く。しかし、創造の才があれば救える。すべての才を収集する。それが化け王だ。
才は奪われ、ポイポイと格納、隔離された。放たれることはない。ジル王とジル王子、二人だけの秘密。
化け王の治世は、平和そのもの。才は奪うが、命は奪わない。化け王の城にいる者すべて、化け王の民。王は民を守るもの。誰に、何を言われようが拷問せず、丁重に扱う。そんな王にも訪れる。
「ジル王子、お別れです。私は、旅立ちます。」
「ジル王。あなたと交わした約束、忘れません。秘密は秘密のまま。」
「私の、最後の願いを、叶えてほしい。」
「私に出来ることなら、何なりと。」
「次代の化け王を、支えてほしいのです。」
収集の才を持って生まれると、三歳で即位させられる。たった三歳。泣こうが喚こうが、刑の執行を強いられる。そして幽閉されるのだ。化け王の城に。
心に深い傷を負い、癒されることも、感謝されることもない。親から引き離された子は、歪んでゆく。ゆっくりと、確実に。