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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
299/1634

6-133 良山から出すのは、危ない


フンフン、フフン。


マルコを連れて、朝の山歩き。連れ立つのは、シゲとシゲコ。



「なぁ、マル。」


「なぁあ、に?」



釜戸社かまどのやしろから、使いが来た。


北山の祝攫い。その裁きが、終わりに近づいている。だから攫われた祝の子であるマルも、裁きに出なければならない。


ありのまま言っても良いなら、行きたくない。北山の誰にも、会いたくない。


怖い、恐い! 思い出しただけで、胸が苦しくなる。



親? 確かに、産んでもらった。父と母がいたから、生まれた。北山にいた時は『なぜ産んだの』って、思った。今は、産んでくれて良かった。幸せだもの。


でも、会いたくない!




「どうする、マル。話せないが、会いたいかい?」


ブンブンと勢いよく、首を横に振った。


「あいたくぅ、なぁい。」


「そうか、分かった。」



シゲはホッとした。尋ねたものの、なぜ話せないのかと問われれば、困るから。シゲだけでなく、良村の誰もが、マルを慈しんでいる。


傷つけたくない。


マルの親は二人とも、マルを憎んでいた。母は『産まなければ良かった』と。父は『顔も見たくない』と。揃い揃って、酷いのだ。


たとえ親でも、許せない。



たった五つの子が、生きるのに疲れて、死を選んだ。牙の滝の上から、迷いなく飛び降りた。いや、飛び込んだ。


オロチ様の御力が無ければ、マルは死んでいた。


ろくに食べさせて貰えず、あちこち痣だらけで、折れそうな程、細かった。子が、話せなくなる。言の葉を失うのは、並並なみなみじゃ無い。


どもるって事は、強く頭を打ったんだ。そうでなければ、吃らない。



「あのな、マル。」


釜戸社に行くのは、変わらない。断れないんだ。けど、会わなくて良い。会わせない。


マルには、オロチ様が憑いている。祝なら気付く。だから裁きが終わるまで、離れで待つ。オレはマルの親代わりとして、裁きに出る。


一人じゃ無い。


釜戸山にいるノリが、マルの側にいる。マルコを連れて行きたいなら、連れて行こう。



「キャン。」 ボクモイク。


マル、連れて行ってくれるよね?


「クゥン。」 ツイテクカラネ。


マルコを抱き上げ、ニッコリ。シゲは笑いながら、マルを優しく抱きしめた。





おにときにて。


ヘグとオミが、見合っている。話を纏めると、こうだ。


大実山だった頃に比べて、良山。何というか、清らかになった気がする。大実神を祀った人たちの中にも、祝がいた。空と、いや。雲と話せた。


人なのに、天つ神と話せるなんて。


そういえば、あの鏡。今、何処どこにあるんだろう。確か、祝人が泉の辺りで拾い、ほこらに入れた筈だ。


いつの間に、消えたんだろう。


この山に無いなら、他の山に。この山に有れば、気付くハズ。豊かな実りをもたらすのは、雲の神か夜の神。


大実神は、山神。大蛇様は、隠の蛇神。鏡の力とは、繋がらない。



「この清らかさ、マルの力だと考えると。」


「オミ、止めよう。良山から出すのは、危ない。」


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