6-133 良山から出すのは、危ない
フンフン、フフン。
マルコを連れて、朝の山歩き。連れ立つのは、シゲとシゲコ。
「なぁ、マル。」
「なぁあ、に?」
釜戸社から、使いが来た。
北山の祝攫い。その裁きが、終わりに近づいている。だから攫われた祝の子であるマルも、裁きに出なければならない。
ありのまま言っても良いなら、行きたくない。北山の誰にも、会いたくない。
怖い、恐い! 思い出しただけで、胸が苦しくなる。
親? 確かに、産んでもらった。父と母がいたから、生まれた。北山にいた時は『なぜ産んだの』って、思った。今は、産んでくれて良かった。幸せだもの。
でも、会いたくない!
「どうする、マル。話せないが、会いたいかい?」
ブンブンと勢いよく、首を横に振った。
「あいたくぅ、なぁい。」
「そうか、分かった。」
シゲはホッとした。尋ねたものの、なぜ話せないのかと問われれば、困るから。シゲだけでなく、良村の誰もが、マルを慈しんでいる。
傷つけたくない。
マルの親は二人とも、マルを憎んでいた。母は『産まなければ良かった』と。父は『顔も見たくない』と。揃い揃って、酷いのだ。
譬え親でも、許せない。
たった五つの子が、生きるのに疲れて、死を選んだ。牙の滝の上から、迷いなく飛び降りた。いや、飛び込んだ。
オロチ様の御力が無ければ、マルは死んでいた。
陸に食べさせて貰えず、あちこち痣だらけで、折れそうな程、細かった。子が、話せなくなる。言の葉を失うのは、並並じゃ無い。
吃るって事は、強く頭を打ったんだ。そうでなければ、吃らない。
「あのな、マル。」
釜戸社に行くのは、変わらない。断れないんだ。けど、会わなくて良い。会わせない。
マルには、オロチ様が憑いている。祝なら気付く。だから裁きが終わるまで、離れで待つ。オレはマルの親代わりとして、裁きに出る。
一人じゃ無い。
釜戸山にいるノリが、マルの側にいる。マルコを連れて行きたいなら、連れて行こう。
「キャン。」 ボクモイク。
マル、連れて行ってくれるよね?
「クゥン。」 ツイテクカラネ。
マルコを抱き上げ、ニッコリ。シゲは笑いながら、マルを優しく抱きしめた。
隠の世にて。
ヘグとオミが、見合っている。話を纏めると、こうだ。
大実山だった頃に比べて、良山。何というか、清らかになった気がする。大実神を祀った人たちの中にも、祝がいた。空と、いや。雲と話せた。
人なのに、天つ神と話せるなんて。
そういえば、あの鏡。今、何処にあるんだろう。確か、祝人が泉の辺りで拾い、祠に入れた筈だ。
いつの間に、消えたんだろう。
この山に無いなら、他の山に。この山に有れば、気付くハズ。豊かな実りを齎すのは、雲の神か夜の神。
大実神は、山神。大蛇様は、隠の蛇神。鏡の力とは、繋がらない。
「この清らかさ、マルの力だと考えると。」
「オミ、止めよう。良山から出すのは、危ない。」




