6-129 悼む気持ち
明くる日の昼過ぎ、良山の麓の家で会う。
樫から長と、忍頭が来る。樫の長は社の司で、忍頭は禰宜らしい。万が一に備え、祝は里から出ない。常に目眩ましの力で、樫の隠れ里は守られている。
「はじめまして。厳樫社の社の司で、里長のトシ。隣にいるのは禰宜で、樫の頭。」
「名は、言えぬ。」
「良村の長、シゲだ。忍びは名乗れない、そう聞いた。気にしない。」
「良村のシンだ。オレも気にしない。」
「ありがとう。」
樫、謡い人の隠れ里。
遠い昔、力を持ち過ぎた者に使われる事に疲れ、村を逃げ出した齋橿の民。北へ北へ進み、山奥に厳橿を見つける。縁を感じ、樫の里を作った。
幾年か経ち、村に残った竈である橿が、逃げ込んだ。
目眩ましの力で隠れていたが、祝が捕らえられる。戦うも嬲られ、生き残りが齋橿を頼ったのだ。
心を読む齋橿、目眩ましの力を持つ橿。元は同じ橿、共に生きる道を選んだ。それからずっと、助け合って暮らしている。
「樫は良村に、決して仕掛けない。裏切らないと誓う。結び、助け合いたい。それが望みだ。」
玄さま。謡狐は、禰宜に仕える。幻を見せる力を持つ、妖怪。その玄さまが仰った。良村なら、信じられると。
あの戦で、多くの人が死んだ。
外れに纏めて葬られたが、縁の者が参るのは難しい。しかし、良村は誰でも参れる地に、墓を。それも手厚く、葬った。良村だけだ。他の地は、埋めて終わり。
死んだ者の魂は、生まれた地へ戻る。隠となり、慈しみ守る。
分かっていても、子や親が死んだ地に参りたい。そう思うのが人。その願いを叶え、墓を守っている。そんな村だからこそ、結びたいのだ。
「その気持ち、良く分かる。」
シンは木下の、長の孫だ。
父は秋祭りで、早稲の長に殺された。シンを身籠っていた母は攫われ、早稲でシンを産み育てるも、心が壊れていた。
父は身を挺して、妻と胎の子を守った。『ナナ逃げろ』そう言い残し、目の前で殴り殺されたんだ。病みもする。
母は秋になると、ポツリと言った。『叶うなら木下へ。シンの墓に、参りたい』と。その度に思った。あの男が、木下へ来なければと。
長だった爺様、父さんが生きていれば、三鶴に攻められても耐えた。そう思う。
オレは爺様の孫で、父さんの倅だから、山裾の地で商いが出来ている。知っている人は言うよ。『シンに良く似ている』って。
爺様の隣に、父さんが眠っている。隣に母さんの骨を埋めた時、思ったよ。墓があって良かった。参る事が出来て、良かったと。
「木下は滅ぼされたが、伯父は生きている。墓を守ってくれている。みんな良い人だ。だから信じられる。」
「我らも同じ。良村の人は皆、良い人だ。だから信じられる。だから、結びたい。」
話し合いの末、互いに決して仕掛けない。裏切らないと誓い、結んだ。良村は、干し貝や塩。樫は、いろいろな織物と引き換える事に決まる。
山の奥深くにある、樫の隠れ里。
目眩ましの力で隠されており、行き来するのは難しい。だから大平や陽守と同じく、樫に来てもらう。繋ぎをつける時は、謡が蔓川の向こうで、待つ事になった。
樫と結んだ事は明くる日、上木にも伝えられた。




