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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
295/1632

6-129 悼む気持ち


明くる日の昼過ぎ、良山よいやまの麓の家で会う。


かしからおさと、忍頭が来る。樫の長は社の司で、忍頭は禰宜ねぎらしい。万が一に備え、祝は里から出ない。常に目眩ましの力で、樫の隠れ里は守られている。



「はじめまして。厳樫社いつかしのやしろの社の司で、里長のトシ。隣にいるのは禰宜で、樫の頭。」


「名は、言えぬ。」


良村よいむらの長、シゲだ。忍びは名乗れない、そう聞いた。気にしない。」


「良村のシンだ。オレも気にしない。」


「ありがとう。」



樫、うたい人の隠れ里。


遠い昔、力を持ち過ぎた者に使われる事に疲れ、村を逃げ出した齋橿いつかしの民。北へ北へ進み、山奥に厳橿いつかしを見つける。ゆかりを感じ、樫の里を作った。


幾年いくとせか経ち、村に残ったかまどである橿が、逃げ込んだ。


目眩ましの力で隠れていたが、祝が捕らえられる。戦うもなぶられ、生き残りが齋橿を頼ったのだ。


心を読む齋橿、目眩ましの力を持つ橿。元は同じ橿、共に生きる道を選んだ。それからずっと、助け合って暮らしている。



「樫は良村に、決して仕掛けない。裏切らないと誓う。結び、助け合いたい。それが望みだ。」


くろさま。謡狐うたいのきつねは、禰宜に仕える。幻を見せる力を持つ、妖怪。その玄さまがおっしゃった。良村なら、信じられると。


あのいくさで、多くの人が死んだ。


外れに纏めて葬られたが、ゆかりの者が参るのは難しい。しかし、良村は誰でも参れる地に、墓を。それも手厚く、葬った。良村だけだ。他の地は、埋めて終わり。


死んだ者の魂は、生まれた地へ戻る。おにとなり、慈しみ守る。


分かっていても、子や親が死んだ地に参りたい。そう思うのが人。その願いを叶え、墓を守っている。そんな村だからこそ、結びたいのだ。




「その気持ち、良く分かる。」


シンは木下の、長の孫だ。


父は秋祭りで、早稲わさの長に殺された。シンを身籠っていた母は攫われ、早稲でシンを産み育てるも、心が壊れていた。


父は身を挺して、妻と胎の子を守った。『ナナ逃げろ』そう言い残し、目の前で殴り殺されたんだ。病みもする。


母は秋になると、ポツリと言った。『叶うなら木下へ。シンの墓に、参りたい』と。そのたびに思った。あの男が、木下へ来なければと。



長だった爺様、父さんが生きていれば、三鶴に攻められても耐えた。そう思う。


オレは爺様の孫で、父さんのせがれだから、山裾の地で商いが出来ている。知っている人は言うよ。『シンに良く似ている』って。


爺様の隣に、父さんが眠っている。隣に母さんの骨を埋めた時、思ったよ。墓があって良かった。参る事が出来て、良かったと。




「木下は滅ぼされたが、伯父は生きている。墓を守ってくれている。みんな良い人だ。だから信じられる。」


「我らも同じ。良村の人は皆、良い人だ。だから信じられる。だから、結びたい。」



話し合いの末、互いに決して仕掛けない。裏切らないと誓い、結んだ。良村は、干し貝や塩。樫は、いろいろな織物と引き換える事に決まる。




山の奥深くにある、樫の隠れ里。


目眩ましの力で隠されており、行き来するのは難しい。だから大平や陽守やもりと同じく、樫に来てもらう。繋ぎをつける時は、謡が蔓川つるのかわの向こうで、待つ事になった。


樫と結んだ事は明くる日、上木にも伝えられた。


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