6-125 死を悲しみ、悼む場
鮎川と東川が交わる、山裾の地の奥。
なぜ、あの地に。初めは、そう思った。今なら解る。鮎川を越えれば、直ぐだ。年老いた者、幼子でも参れる。
戦に取られた者の、身寄りだろう。舟を降り、山の奥へ。墓に花を手向け、祈る。
川から近ければ、遠くからでも行き来が出来る。あまり近すぎると川が溢れた時、流されてしまう。川から近い、山の中。
あの地が最も、適しているのだ。
「早稲で、思いも及ばない。そんな扱いを。」
「受け続けたのだろう。」
「歪んでいるが、真面だ。」
弓長、忍頭、力頭。三人が見合い、頷く。
雲だけでは無い。結んでいる忍びも同じ。初めは早稲よりはマシ、くらい。違うと思ったのは、戦の後。
良村の人たちは、手厚く弔った。攻めて来た戦人を、分け隔てなく。その時から尊び、敬っている。
人とは欲深く、怖くて恐ろしい生き物だ。同じ思いをしなければ、全てを悟り知る事が出来ない。
愛されなければ、愛せない。優しくされなければ、優しく出来ない。痛みを知らなければ、痛めつけてしまう。苦しみを知らなければ、苦しめてしまう。
痛みも苦しみも、叩きつけられ続ければ、壊れる。そうなれば終わりだ。痛みが分からなくなる。苦しみに疎くなる。
良村の人たちは、ギリギリで踏み止まっているのだろう。
叩きつけられた全てを受け止め、同じ思いを抱かせないよう、真っ直ぐ前を見据える。言うのは容易いが、中々に難しい。
「多くの人が死んだ。」
「戦が終わり、腐る前に纏めて焼かれた。」
「あちこちで、淡淡と。」
慈しみ育てた子から、命を奪った。親より早く、死なせてしまった。攻めなければ、死なずに済んだんだ! そう言って、突き放す事も出来る。しかし、良村は違った。
守るために、戦っただけ。誰も、何も言わない、言えない。なのに死を悲しみ、悼む場を、速やかに設けたのだ。
「やぁ、良いかな?」
桧、月、梟。三つの忍頭が、弓の村に集まった。
「早かったな。」
雲の忍頭、二コリ。
「ん、すまない。遅れた。」
影の忍頭が加わり、五つの忍びが揃った。
良村との結びに、忍びの結びを絡めた。それは良い。決して仕掛けず、裏切らない。その結びに、互いに助け合うと、なぜ加えなかったのだ!
いや、分かる。そう出来なかったのだと。
しかし、求めてしまう。あれだけの村、他には無い。叶うなら忍びとしてでは無く、村と村との付き合いを・・・・・・。
「で、影。その男。」
「支え頭だ。」
そうか、潜り影になるのか。
雲も三人、送る。霧雲山は、送らないだろう。送れない、と言った方が正しい。
祝辺に行かせた雲の話。聞く限り、守は当てにならん。これまで通り、ないモノとして扱おう。
暫くは、南の忍びが動く。北の忍びは、頃合いを見て。
「手が足りなければ、言ってくれ。月は繋ぐ。」
「片付けが要るなら、桧に。」
「聞き出すのは、梟に任せろ。」
繋ぎを担う雲は今、休んでいる。
祝辺から、戻ったばかりでな。起きたら、良村へ行かせるよ。いつ会うか決まるまで、話し合おう。




