2-19 いい湯だな!
釣り長について、すこし歩く。そこには家とは違う、竹と藁で作られた壁があった。
グルリと何かを囲っている。中に入ると台があり、竹で編んだ、平たい籠が置いてある。見ると、布が入っていた。
「脱いだ衣は、ここに入れる。朝、洗うんだ。」
そうか。よく考えてある。ポポイッと脱いで、大きな籠に入れた。さらに奥へ進むと、出で湯があった。
周りの土の上には、平べったい石が敷き詰めてある。ここで体を洗うのか。フムフム、なるほど。
浅くて広い土器で湯を掬い、体にかける。それから布で拭い、再びザバァー。洗ってから入る、そういう決まりだ。
爺様と入った出で湯は、こんなじゃなかった。猿も入っていた。広くて、とっても気持ちがよかった。でも、こういう出で湯も良い。ツウ、喜んでるかな?
「フゥ。」
肩の力が抜け、思わず言ってしまった。
「気に入ってもらえて、よかった。」
みんなニコニコしている。
ツウは驚いた。わぁ、ヘぇが連なって、アミの真似をしながら出で湯に入った。
「フゥ。」
肩の力が抜けた。
「あの向こうが男、こっちが女。」
へぇ。あ、また。
「みんな驚く。ツウだけじゃないわ。」
そう、よかった。
ポカポカあったまり、平たい籠に入っていた布で拭いてから、衣を着る。
導いて連れられた家で一休み。しばらくすると、夕餉が運ばれてきた。ツウがいない。まだ出で湯に入っているのかな?
「お待たせしました。」
ツウは村を出る時、バサッと髪を切った。兄の衣を着て、娘だと知られないように。幼子だと思われるように。
アミは気づいた。切ろうとして切ったのではない。切らなければいけなかったんだと。だから、切り揃えた。
ぐっすり眠って、目が覚めた。
「おはようございます。ゴロさん、タロさん。」
「おはよう、コウ。」
「おはよう。よく眠れたかい。」
「はい。」
「そうだ、出で湯へ行こう。」
「え? 朝からですか。」
「ああ。釜戸山に来たら、出で湯だ。」
釜戸山って、良いところだなぁ。夕餉もおいしかった。そうだ、思い出した。爺様、言ってたな。獣と入る出で湯もいいが、釜戸山の出で湯もいいぞって。
朝餉を食べて、衣を洗った。干してから、ゴロさんが言った。
「乾いたら、川田の村に帰るよ。」
「そう、ですか。」
「また会えるさ。会いに来るよ。」
そう言って、タロさんが頭を撫でてくれた。
「コウ、学ぶんだ。いろいろなことを。」
「はい。」
「ツウ。」
「はい。」
「一人じゃない。」
「はいっ。」
ツウは嬉しくて、大きな声で言った。




