6-119 アレって言うな
沢出社の祝、口止めでもした?
焦るわぁ。もっと早く言ってよ。でもまぁ、聞き出せて良かった。商い人ってのは、スゴイね。
良村のシン。腕っ節は弱そうだが、強い。
早稲で扱き使われて、南の地を飛び回ったって。どんだけ激しい戦いを、潜り抜けて来たんだ?
何はともあれ、纏まった。
良山に忍びが入れなくなった、のはキツイな。もしかすると、他の忍びと結んだか。結んだ五つじゃ無い、他のと。
どこだ、いや止そう。良村と助け合える。そんな忍びが、いるんだろう。
隠の世か。天霧山にも在るケド、当てに出来ない。
あちこち行ったし、確かめた。どこも、見えなきゃ暮らせない。それに隠や妖怪とは、生きる時が違う。
オレたちは見えるから、沢出の祝が見た事が起こっても、隠の世へ逃げ込める。行き来する人、いるからな。他の山は・・・・・・。
全ての人を、隠の世へ? いくら何でも、それは難しい。なら、どうする。
山で暮らすのに疲れて、隠の世へ引っ越すんだ。『攻められました、助けてください。』『良いですよ。』とは、ならねぇよ。
沢出社でも矢弦社でも、祝ってのは。
ハァ、なぁんにも考えて無いんだろうなぁ。強い力を持ってるってダケで、出ないんだから。
山から出れば、見えて来るモノが有るんじゃないか?
それにしても、祝辺の守。
気付いて無いのか? 隠の守は、気付いているだろう。先見、先読。どちらも居たハズ。
分かっていて、動かない。・・・・・・動けない。祝だから、神の仰せに背けない。
天霧山に戻って直ぐ、忍頭が矢弦社へ。
良村での話し合い、全てを伝えに、ネッ。あの祝の事だ、荒れるだろうなぁ。行かなくて良かった。
で、今。
ウチの頭。ピクリともせず、遠くを見つめています。社の司、禰宜、祝に囲まれて、イロイロ問い詰められたんだね。
そろそろ、戻ってきてください。
「忙しくなるぞ、クワ。」
一つ。霧雲山、祝辺へは頭ではなく、平が行く。
雲からは、オレ。ハァイ、行きますよ。
二つ。五つの忍頭が、良村に集まる。
倒れた木菟。そろそろ霧雲山へ、戻るらしい。集まるなら、その後。
三つ。南の地へ行き、大国の動きを探る。それも、長く。
少なくとも、三人は送るだろう。
四つ。保ち隠との、話し合い。
戦を仕掛けられる前に、止められれば良いが、難しいだろう。攻められた時、逃げ込めるように、頼み込む。
務められるのは、ツサだけ。社のや弓長には、任せられない。断られちまう!
五つ。祝に、良村を諦めさせる。
これが最も、難しい。見てよ、頭の顔。ゲッソリ。魂、抜けた?
「なぁ、クワ。祝ってのは、皆アレか。」
そんなワケ、ありません。違います。他の祝に叱られますよ。こわいコワイ。
心を操る力を、受け継いだんです。厳しく躾けないと。なのに社の皆から、チヤホヤ。
母親はホッタラカシ。命と引き換えに、産んでくれたのにね。で、父親。葬った次の日に後添え、迎えました。
そりゃ、歪みますよ。
釜戸社の祝人頭、ナガさん。後添えを迎えず、我が子を慈しみ育てて。
スクスク真っ直ぐ、育ったエイさま。食いしん坊らしいけど、幼子ですから。
そう考えるとウチの祝、気の毒ですよね。って、ん!
「頭。釜戸社に訴えられる前に、アレを躾けてください。」
「アレでもウチの祝だ。アレって言うな。」
頭もアレって、言ってます。




