6-111 影ではなく、里長として
難しく考えなくて良い。ただ会って、話し合う。それだけ。
心消が望むのは、良村との絆。決して仕掛けず、裏切らない。求められれば助ける。それだけの事さ。
矢弦社の祝。取り込む気でいるが、叶わないだろう。
良村と獣谷の隠れ里。何かあれば助け合うと、誓いを立てている。早稲に苦しめられた者の絆は、強く固い。決して裏切らない。
雲だって、良村の力を知っている。
いくら矢弦社の忍びでも、天霧山で暮らす者を守るためなら引く。良村を敵に回すなんて、愚かにも程がある。
すべては霧雲山、祝辺の守から守るため。見つかれば終わり。使われて滅ぶ。後見の無い里や村など、直ぐに吹っ飛ぶ。
霧雲山を後見に持つ、獣谷の隠れ里。釜戸山を後見に持つ、良村。この二つの結び付き。強まる事は有っても、断たれる事は無い。
だから欲しかった。だから求めた。心消を残すために、どうしても・・・・・・。
「どうした?」
「何でも無い。」
この先に、良山がある。
あの戦で、多くの命を奪った大穴。根の国へ落ちるソレが、ガバッと。許し無く入れば、真っ逆さま。恐ろしく危ない、戻れない道。
許しを得たと、使いから戻った雲が言った。偽りで無ければ、辿り着くハズ。昼なのに薄暗い。夏なのに、ヒンヤリしている。
「影にも、見えるのかい?」
「何か居るのか。」
いや居る。・・・・・・にも? 隠か妖怪か、見えない何かが傍に。
息は出来る、苦しく無い。手も足も悴むが、動くのは確かだ。
「ワン。」 ツイテコイ。
「長の犬だ。慌てず騒がず、行こう。」
良山の麓の家で、昼。
こちらは三人。雲の忍頭、雲、影。あちらは二人。良村の長と、商い人。蛇神様も、御出で遊ばす。
落ち着け。
巻き込もうとは思わない。心消の後見に、などと大それた考えも無い。ただ、絆が欲しいだけ。叶うなら、助け合いたい。
「良村の長、シゲだ。」
「商い人、シン。」
「我は隠。この度の話し合い、立ち合うぞ。」
フン。心消のヤツ、やっと解り居ったか。マルの幸せを妨げるモノは、全て排する。
「天霧山。矢弦社の忍び、雲。立ち合いのため、参りました。」
「雲の忍頭。名は、申せません。」
「良い。」
「心消の里長。影の忍頭ゆえ、名は。」
「良い。」
申し上げます。
心消は良村に、決して仕掛けません。決して、裏切りません。
心消が求めるのは、良村との結び。もし叶うなら、互いに仕掛けず、助け合うと。
多くは望みません。
心消と結ばずとも、良村は困らない。しかし、それでも欲してしまう。
後見の無い、隠れ里です。
祝辺の守に見つかれば、弄ばれる。そんな事、許せない。受け入れられない。




