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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
276/1634

6-110 なぜ、良村なんだ


「なぜ、良村よいむらなんだ。釜戸社かまどのやしろに認められたが、獣谷の隠れ里と結んでいる。忍びなら、知っているだろう。祝辺の守に認められた、隠れ里だ。」


「良村のおさなら、漏らない。聞かれても教えない。」



あの、上木が結んだんだ。信じられる。


かしは、良村との結びを望んでいる。だから良山よいやまには入らない。結びたいと願うなら、許しなく立ち入れない。


昼、心消こけしの長と会うのだろう?


仲立ちに、雲の忍頭。立ち合いに、長が見知っている雲。良村からは、長と誰か。引き取った祝の子を守る、おにか妖怪も出るのかな?



うたひそかにさぐって、祝に知らせるのが務め。どんなに深く隠しても、しっかり隠しても、暴くよ。




「どうだろう。影との話し合いが、済んでからで良い。会うだけ、会ってくれないか。」


「会うのは良いが、立て込んでいる。せめて二夜ふたよ、待ってくれ。」


「分かった。」


スッと、謡が消えた。






「キャ、キャン。」 ムラニ、カエリマショウ。


マルが待ってる。早く会いたいんです、シゲさん。


「帰るか。」


「キャン。」 ハイ。



来た道を戻る。


考え事は、村に戻ってから。気を抜くと危ない。山を知り尽くしたカズと、罠と仕掛けに詳しいコタ。二人が話し合って、張ったのだから。


それにしても、マルコ。


これだけ仕掛けてあるのに、引っかからない。鼻が利く。カンも良い。何かあれば、マルが悲しむと解っている。賢い犬だ。







「シゲ。謡の事、どうする。」


「会うだけ、会います。オロチ様。樫とは、どのような里なのでしょうか。」



謡い人の、隠れ里だ。


その昔、南の地にて。めかんなぎおかんなぎに、美しい娘が生まれる。その嬰児みどりご。離れた地を感じ取る力を、持って生まれた。


父も母も、娘が言の葉を話すまで、全く気付かなんだ。気付くと荷をまとめ、ぐ逃げた。



巫も覡も、祝にはかなわない。娘の力は、祝の力。このまま村に残れば、必ずいくさに使われる。知られる前に、逃げよう。



逃げて逃げて、辿り着いたのが、樫の隠れ里だ。


謡い人たちは、親子を迎え入れた。里の祝は、その娘の娘たち。里を守るため、力を使い続ける。


育った娘は知る。祝辺の守が守るのは、霧雲山だけだと。



それから、長い時が流れた。


しかし今でも、樫は霧雲山を、祝辺の守を避けている。決して、知られてはいけない。見つかっては、いけないのだと。




樫は小さい。


困った時は大平か、陽守やもりに頼る。他との付き合いは無い。他とは、結んでいない。そんな樫が、良村に近づいた。


似たような隠れ里は多い。


似ていて、忍びがいる。となると、限られる。その一つが上木。樫と上木に付き合いがなくても、謡とあかには、どうだろう。




会うなら、我も立ち会う。


樫は小さいが、豊かな里だ。良い織物を作る。大平に陽守、どちらも穏やかだ。良村に禍をもたらすとは、考えにくい。



「イチの魂を救えたら、会います。」



救えたら、か。難しいが、力を尽くそう。


それにしても、多いな。心消の影、上木の緋、樫の謡。矢弦の雲も、加わりそうだ。


・・・・・・南の地で、何があった。

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