6-110 なぜ、良村なんだ
「なぜ、良村なんだ。釜戸社に認められたが、獣谷の隠れ里と結んでいる。忍びなら、知っているだろう。祝辺の守に認められた、隠れ里だ。」
「良村の長なら、漏らない。聞かれても教えない。」
あの、上木が結んだんだ。信じられる。
樫は、良村との結びを望んでいる。だから良山には入らない。結びたいと願うなら、許しなく立ち入れない。
昼、心消の長と会うのだろう?
仲立ちに、雲の忍頭。立ち合いに、長が見知っている雲。良村からは、長と誰か。引き取った祝の子を守る、隠か妖怪も出るのかな?
謡は密かに探って、祝に知らせるのが務め。どんなに深く隠しても、しっかり隠しても、暴くよ。
「どうだろう。影との話し合いが、済んでからで良い。会うだけ、会ってくれないか。」
「会うのは良いが、立て込んでいる。せめて二夜、待ってくれ。」
「分かった。」
スッと、謡が消えた。
「キャ、キャン。」 ムラニ、カエリマショウ。
マルが待ってる。早く会いたいんです、シゲさん。
「帰るか。」
「キャン。」 ハイ。
来た道を戻る。
考え事は、村に戻ってから。気を抜くと危ない。山を知り尽くしたカズと、罠と仕掛けに詳しいコタ。二人が話し合って、張ったのだから。
それにしても、マルコ。
これだけ仕掛けてあるのに、引っかからない。鼻が利く。カンも良い。何かあれば、マルが悲しむと解っている。賢い犬だ。
「シゲ。謡の事、どうする。」
「会うだけ、会います。オロチ様。樫とは、どのような里なのでしょうか。」
謡い人の、隠れ里だ。
その昔、南の地にて。巫と覡に、美しい娘が生まれる。その嬰児。離れた地を感じ取る力を、持って生まれた。
父も母も、娘が言の葉を話すまで、全く気付かなんだ。気付くと荷を纏め、直ぐ逃げた。
巫も覡も、祝には敵わない。娘の力は、祝の力。このまま村に残れば、必ず戦に使われる。知られる前に、逃げよう。
逃げて逃げて、辿り着いたのが、樫の隠れ里だ。
謡い人たちは、親子を迎え入れた。里の祝は、その娘の娘たち。里を守るため、力を使い続ける。
育った娘は知る。祝辺の守が守るのは、霧雲山だけだと。
それから、長い時が流れた。
しかし今でも、樫は霧雲山を、祝辺の守を避けている。決して、知られてはいけない。見つかっては、いけないのだと。
樫は小さい。
困った時は大平か、陽守に頼る。他との付き合いは無い。他とは、結んでいない。そんな樫が、良村に近づいた。
似たような隠れ里は多い。
似ていて、忍びがいる。となると、限られる。その一つが上木。樫と上木に付き合いがなくても、謡と緋には、どうだろう。
会うなら、我も立ち会う。
樫は小さいが、豊かな里だ。良い織物を作る。大平に陽守、どちらも穏やかだ。良村に禍を齎すとは、考えにくい。
「イチの魂を救えたら、会います。」
救えたら、か。難しいが、力を尽くそう。
それにしても、多いな。心消の影、上木の緋、樫の謡。矢弦の雲も、加わりそうだ。
・・・・・・南の地で、何があった。




