2-17 釜戸山へ
※お知らせ※
弥生時代に、馬はいない。いたとしても野生で、食用だった? そうです。しかし、本作では、馬守の一族が、野生の馬を飼いならし、交易に貢献した。という設定になっています。
嵐が去った次の日。コウとツウは、川田の狩り人、ゴロとタロと共に、釜戸山へ向かった。
釜戸山に入るには決まりがある。
まず、源の泉に行く。一人が守り人の村へ行き、山に入る許しを得る。
許しなく山に入れば、裁きを受ける。釜戸社の祝には強い力があって、熊でも逃げられない。そう言われ、恐れられている。
鷹山の、狩り人の小屋から、釜戸山へ。なだらかな道のりを、ゆっくりと行く。
風はソヨソヨ、お日様ニコニコ。追手がかかっているなんて、嘘のよう。
「少し、休もうか。」
「はい。」
コウとツウ、二人の声が重なり、ポッとなる。
コウとツウの寝顔を見ながら、ゴロとタロは心に決めた。この子たちを、釜戸社の、祝に託そうと。
この辺りには、多くの村がある。それぞれの村を治めるのは長。その村、すべてを治めるのが、釜戸社の祝。
釜戸山の灰が降る、すべてを取り纏める。
川田の村は、豊かな村だ。田も、畑もあって、良く育つ。
近くには深川が流れ、高い山に囲まれている。狩りにも、釣りにも良い。流れが早いからか、大きな魚が捕れる。
争いを嫌い、山の奥へ逃げて来た人たちが、長い時をかけて作った村。穏やかに暮らすために、村を守るために、助け合っている。小さいが、とても強い。
そう、強くなければ守れない。豊かだから、他の村から狙われる。襲ってきたことだって、一度や二度じゃない。そのたび戦い、蹴散らかす。
コウが川田の村で暮らしたいなら、喜んで迎える。でも、コウは村を作りたいと言った。
コウは幸せな気持ちで、いっぱいだった。ツウが笑っている。ゴロさんも、タロさんも、笑っている。
釜戸山に行かないで、川田の村で暮らそうか。ツウと生きるなら、その方がいいのかもしれない。
でも、オレはタツに狙われている。早稲には、タツみたいなのが他にもいる。川田の村は、良い村だ。
早稲なんかに荒らさせない。それに、オレは村を作りたい。小さくてもいい、争いのない村を。釜戸山に行こう。もう、迷わない。
稲田の村から逃げた時は、とても怖かった。誰にも頼れない。そう思うと、涙が止まらなかった。
大田の村も、草谷の村も、三鶴の村に狙われているから、逃げ込めない。なら、どこへ行けば?
いっそ死のうか。そんなことを考えながら、川を見ていた。そんな時、コウが声をかけてくれた。
とりあえず、ここじゃない、どこかへ行きたい。そんな考えだったのに、今は違う。コウが好き。
弟と同じ八つ。十になった私より、しっかりしている。それに、とても賢い。私に出来ることは、きっと多くない。
でも、コウといたい。釜戸山へ行って、いろんなことを学んで、コウの役に立ちたい。そうよ!もう、迷わないわ。
釜戸山は大きな山だ。これだけ大きな山なら、十は村がある。でも、この山にある村は三つ。
守り人の村、狩り人の村、釣り人の村だ。どの村も、穏やかで、良く治まっている。
許しなく山に入ると、良く躾けられた犬が吠える。吠えて知らせる。誰も決まりを破れない。
いつも誰かが、源の泉にいるわけじゃない。しばらく泉のそばで休んでから、一人が守り人の村へ行き、山に入る許しを得る。
なのに、いた。待っていた。釣り人の村の長が! 狩り長じゃない。釣り長だ。泉とは言っても、大きい。魚だって泳いでいる。釣ろうと思えば、釣れるかもしれない。
でも、竿も、網も持っていない。草を食む馬のそばで、静かに、ただ待っていた。
「コウとツウだね。」




