6-102 すたこらサッサ
マルはマルコと、山歩き。
大実神の御力か、田も畑も良く実っている。秋の取入れが楽しみだと、みんなホクホク顔。
マルは夕方の山歩きの時、御参りする。大実神の御姿。ほんの少し、輝きを増されたような・・・・・・。
「こんにちは。」
振り向くと、犲がいた。
「こんにちは。」
人でも何でも、山で会ったら声を掛ける。それが、山の決まり。マルは教えられた通り、言の葉を交わす。
「キャン。」 コンニチハ。
悪い妖怪じゃ無い。ずっと昔、神に仕えていたのかな? 澄んだ目をしている。
「マルよ。オミが戻るまで、仕えよ。」
「断る。」
「蛇は黙って居れ!」
大蛇を悪く言うなら、嫌いになります。人でも隠でも妖怪でも、神様でも!
「なっ。」
「キュゥ、キャン。」 ネェ、モウイコウヨ。
もっとマルと、山歩きしたい。神様の事は、神様に任せよう。牙の滝で祀られてた神って、大蛇のコトでしょう?
「さぁ、山歩きだ。行こう、マル。マルコ。」
国つ神は、御姿を現されない。隠は好きな時に、何処へでも。大蛇はルンルン、マルと出掛ける。大実神は・・・・・・。
楽しそうに、山歩きをするマル。寄り添うマルコ。側で見守る大蛇。みんなニッコニコ。見ているだけで、幸せな気持ちになる。
良山に暮らす隠たちにとって、大蛇の存在は大きい。
牙滝社を、継ぐ子に任せた。とはいえ、隠神である。悪しきモノの多くは消え、残りは逃げた。山に残っているのは、静かに暮らしたい隠だけ。
なのだが、だったのだか、今はヤツがいる。悪意の悪仲間、悪しき妖怪、嫌呂。
水豊社。大雨により山が崩れ、流れた。土の川が村を飲み込み、全て埋め尽くした。神は、全ての使わしめを放たれた。求める人がいなくなれば、神は消える。
『慕い仕えてくれる皆を、道連れになど』と、仰せになり。
山を出て、人を遠ざけようとする隠。他の神に仕え、偲ぶ隠。闇に囚われた魂を、少しづつ清める隠。
皆の思いは一つ。命を奪われ、戻った魂を慰める。そのために力を尽くし、生きる。
表す事の出来ない苦しみが、闇に引き摺り込まれた。
深い闇の中、蠢く魂を求め、悪しきモノが集う。近ごろ、流山に悪しきモノが、次から次へ。
そんな山の近くを、あの人たちが。
守りたい人を質に取られ、恨み辛みを抱えて生きた、耶万の。
嫌呂は、悪意が祝辺の守に祓われて直ぐ、流山へ引っ越した。群れる事を嫌う、一匹狐。たった一度だが、助けられた恩は返せたハズ。
流山からは、隠の世へ行けない。他から入るか、妖怪の墓場を通るか。保ち隠から許し札を受け取ると、荷をまとめ、すたこらサッサ。
憧れの地、流山。嫌呂が思い描いた通りだった。
流山の保ち隠が渋った所為で、思ったより掛かったが、まぁ良い。そんな事を考えていたら、フラァ。気がつくと、耶万に憑いていた。
・・・・・・何も、食べてなかったな。アハッ。




