6-99 悪いのは、戦を好む心
マルは近ごろ、黒いモヤモヤする重いのに、見つめられている。とても苦しそうで、辛そうで、悲しそうな何かに。
近づくと、スッと消えてしまう。
「クゥ?」 ドウシタノ?
ウフッ。抱っこしてもらった。大好きだよ、マル!
「マル。どうした?」
あのね、大蛇。ほら、あそこ。モヤモヤする重いの。近づくとね、消えちゃう。とっても気になるの。
「あれはな、人の隠だ。生まれた地へ戻らず、思いを残したままな。」
思いを残したまま、なあに?
「この広い山の中を、行ったり戻ったり。人だった頃の全てを、忘れてしまったのだろう。」
死んでから時が経てば、根の国へ行けなくなるのね。
悪いのに引き摺られて染まると、黒いモヤモヤになる。辛くて苦しくて、重くなっちゃうなんて。
ねぇ、大蛇。私、モヤモヤを助けたい。
清められれば黒く染まった魂を、キラキラに出来ると思うの。でもね、逃げちゃう。近づくと、スッと消えてしまうの。
清めると悪いのごと、消えてしまうのかしら? 恐ろしくて・・・・・・。だから、逃げてしまうのかしら。
「クゥゥ。」 ナカナイデ。
ペロンとホッペを舐めたら、ギュッと抱きしめられた。痛くないけど、ボクね。マルに、笑っていて欲しい。
大蛇、どうなの? マルが言ったの、当たってるの?
「・・・・・・マル。あれは悪しき妖怪に、取り込まれたのだ。取り込まれた魂を清めるには、強い力が要る。今のマルには難しい。」
今は難しくても、いつか清められる。そうなのね、大蛇。
「そうだ。」
どうすれば良いのかしら。
「・・・・・・諦めなさい。」
どうして?
「失いとう無い。」
???
清めと守りの力を、私は持っている。どちらも強すぎて、魂の底で眠っていた。
今はウトウトしている力を、エイッと引き出せば、命を削ってしまう。だから、今は難しい。解ったけど、スッキリしない。
助けたいのにな。助けられる力が、有るのにな。
この体は小さすぎて、力を叩き起こせば私、死んでしまう。魂が壊れて、命がガリガリ削られて、心がポキッと折れて、動けなくなって、死んでしまう。
・・・・・・嫌。私、死にたくない!
生きて、生きて、幸せに暮らすの。ずっと、ずっと、良村で暮らすの。いつか死んじゃうけど、それまでは生きたい。
「あの魂、悪しき妖怪から離せる。」
どうすれば良いの?
「シゲだ。」
シゲさん?
「あれはな、マルを食らおうと企んで居る。」
えっ!
「案ずるな。我を恐れ、離れる。マルは悪くない。」
良村に攻めて、死んだ人の魂が取り込まれ、ああなった。『シゲさんに、教わりたかった』と、叫んで居る。苦しんで苦しんで、死んだ。
なかなか死ねなかったのだろう。苦しみ悶え、蠢いて。
戦場へなど、好き好んで赴かぬわ。強いられて、逃げられず。断れず、止むを得ず。
悪いのは、戦を好む心だ。話し合わず奪い取ろうと考える、戦いを強いた人が、何よりも誰よりも悪いのだ。
あの戦。良村は全く、悪く無い!




