6-97 違得るなよ
心消を守れるなら、何でも受け入れる。忍びの誓いだって、破らない。
もし破れば、心消の者は皆殺し。里が滅ぶだけじゃ済まない。裏切らない、裏切れない。それが、忍びの結び。
良村に信じてもらうには、雲の助けが要る。
矢弦社だって、良村を取り込もうと考えている筈。だから、オレを会わせたんだ。忍頭と力頭に! でなけりゃ、何なんだ?
「良村の長は、言いました。『忍びの結びに良村も加われば、仕掛けず助け合う』と。」
「で。」
「忍びのいない村は、忍びの結びに加われません。」
「解っていて、伝えなかった。」
「・・・・・・はい。『飲めぬなら、去れ』と言われ、こちらへ。」
「影だけでは結べぬと言うた。それは、良い。」
で、どうする。
良村が求めるのは、心消との繋がりでは無い。忍びの結びに加わる事だ。それは叶わぬ。受け入れられぬ。どうする気だ、心消の長よ。
そもそも、心消に何が出来る。良村が心消と結んで、何の得がある。
ここは霧雲山、山守神が統べる地。
東は神成山、渦風神が統べる地。西は畏れ山、火炎神が統べる地。神は御守りくださる。動くのは祝、隠や妖怪。
祝辺の守は、霧雲山を守る。
東は鮎川。陽守山と大山に。西は多滝川。鑪山と天霧山に。南の鳥の川は、蔦山。暴れ川は、獣谷の隠れ里。崖の川から下は、良村に守らせる。
北は山が険しく、多くの川が流れている。
どれも狭く浅く、曲がり拗けて、攻めようが無い。星海山、天立山、月見山に任せ、足りなければ山平の地に。
南の畏れ川からも、攻めようと思えば攻められるが、険しい山道を登らねば。
守るとすれば、鑪山と蔦山。鳥の川が手薄になれば、山裾の地にある村や、国が動く。
「落ち着いて考えろ。良村に、心消は要るか?」
何が出来る?
良村には、狩り人に釣り人。樵に商い人も。何より、強い。守りながら戦える。戦い慣れている。
良村の後見は、釜戸社。頼るなら、獣谷の隠れ里。近くには、茅野に馬守。少し離れて、草谷。
「・・・・・・良村に心消は・・・・・・要らない。」
心消の長よ。良村と結ぶなら、違得るな。決して仕掛けず、近づくな。求められたら、助けろ。頼るな。求めるな。誓え!
察しの通り、『良村を取り込め』と、言い付けられた。
雲は天霧山、矢弦社の忍び。祝に従い、動く。断られれば、直ぐ引くさ。敵に回したくない。
「心消は良村に、決して仕掛けません。求められれば、助けます。裏切らないと、誓います。」
「その結び、雲が見届ける。」
良村に引き取られた幼子には、隠が憑いている。
蛇の隠は多いが、幼子は北山の生まれ。牙の滝の下で、倒れていた。飛び降りたのに、助かった。
これら全て繋げて、考えてみろ。牙の滝の主、蛇神様だよ。
良山には、妖怪の墓場がある。
妖怪の墓場は繋がっていて、行こうと思えば行けるらしい。この山の保ち隠から、聞き出したのさ。違い無い。
「蛇神様は、牙滝様で在らせられたか。」
叶うなら初めから、やり直したい・・・・・。




