2-16 大きな子
「やっと朝か。寒い。」
「イヌ、逃げるな。オレを温めろ。」
「雨か。寒い。寒いじゃねぇか! 凍えちまう。」
「逃げるな、イヌ。何度も水に落ちたんだ。少しはオレを労われ。」
「・・・・・・。クゥ。」・・・・・・。ハァ。
まったく、何なんだ? 叫んで、騒いで、倒れて。オレに水かけて、また叫ぶ。
ここは谷だ、響くんだ。オレは犬だぞ。耳がいい、鼻もいい、賢い犬だ!
それになぁ、うるさいよ。赤子か? コウのことは諦めろ。あの子なら番を見つけるさ。
どんなに追いかけても、追いつかない。捕まえられない。オレは手伝わない。あの子、好きだから。
とにかく、オレは疲れた。休ませろ。エサよこせ!
ビチビチ、ビチビチ。
「ワンッ。」 ツレタ。
ギイーッ、ギイーッ。ビチッ。
「ク、クゥ~ン?」 アレ、ノリコ?
クンクン。ノリもいる。こっちに来る。やったぁ!
「ワワン、ワ、ワン。」 ノリコ、ココ。キテ。
「ワン、ワン。」 イヌ、イタ。
「クゥ~、ワン。」 ノリ、アソコ。
バシャーン。スイスイ、スイスイ。イヌは川に飛び込むと、舟まで泳いだ。
「イヌ! さあ、おいで。」
ノリが両手を広げて、待ってくれている。うれしい。迎えに来てくれたんだ!
サバッ、コトッ。ブルブルブルゥ~!!
「よぉ~し、よし。イイコ、イイコ。おなかすいたろう? 干し肉をお食べ。」
「クク、クゥ~ン。」 アリガトウ、ノリ。
「クゥ~、ワン。」 ノリ、アレ。
「ん? あぁあ。タツか。」
アイツのことは、見なかったことにしよう。
「よく見つけた。イイコ、イイコ。干し肉をお食べ。」
「オイッ! ノリ。オレを助けろ。」
あぁ~あ。聞こえないふり、聞こえないふり。舟を下流に乗せてっ。
「ノリ! オレを助けろ。聞こえてるだろう。」
はぁ。
「ノリィ~。」
はいはい。わかったよ。乗せてやるよ。
「飛び込め。泳いで来い。」
「はぁ~? お前が来い。」
な、何を言っている。乗り上げちまう!
「ノリィ~。早くしろぉぉぉ。」
はぁ。嬰児じゃあるまいし、少しは考えろよ。
「この深さじゃ近づけない。だからタツ、泳げ。流されちまう。」
ここまで言ってやっても、わからないのか?
「早くしろ! 嵐が来る。」
入れ食いだったからなぁ。はずみがついちまった。
「タツ! 置いていくぞっ。」
と・び・こ・め! お・よ・げ!
「はぁ。」
オレが悪いのか。えぇ?
ザブザブザブ、バシャバシャバシャ。
うるせぇ! イヌの泳ぎを見習え。
「何でもっと早く、助けに来なかった。」
うわぁ、何コイツ。変わってねぇ。八つのままかよ。
「答えろ。」
「うるさい。川に落とされたくなければ、黙ってろ。それと、犬に触るな。魚にも触るな。いいな。」
「・・・・・・。」
「魚に触ったらメシ抜き。犬に触ったら、川に落とす!嘘じゃない。」
フンッ、やっと静かになった。
ノリのヤツ、犬のことになると、手が付けられない。とりあえず、大人しくしておくか。
に、しても、何だ。この舟、魚だらけじゃねえか。よく犬が食わねえなぁ。
あ、あれだ。犬にもわかるのか、コイツのやばさ。そういやぁ昔。母さんにって、川で捕った魚、持ってきてたな。
好きなのか、魚。変わってねぇ。五つのままかよ。




