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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
258/1633

6-92 心消はねぇ・・・・・。


「次は、忍びの事。」



オロチ様からうかがった。


良山よいやまに近づいた忍びは、二人。心消こけしの影と、上木のあか。近づいたのは、共に夜。マルコが気付いて、駆け出した。


石積みの社で確かめて、舟寄せ。それから森川を下って、山裾の地とのさかいで、足を止めたそうだ。



初めは、心消。


『話があるなら、朝まで待て。嫌なら出直せ』と、オロチ様がおっしゃった。するとな、言ったそうだ。『この仔犬、貰ってゆく』と。


マルコはマルの犬だ。慈しんで育てている。それを飼い主の許しなく、貰ってゆく?


もし取られたら、マルは心を閉ざすだろう。オロチ様の御考えも、同じ。


『命は一つ、捨てる気か』とまで言われて、『めておこう。まだ、死にたくないんでね』だ。人だろうが獣だろうが、命を軽んじるヤツは信じられない。



明けてぐ、また来た。


良山に来たのは、夜遅く。次に来たのは、朝早く。どう考えても、オレたちを軽んじている。


ふもとの家で待たせて、会って話した。


心消の事、祝辺の守に知られたらしい。獣谷の隠れ里と良村よいむらは守り、心消は攻めに使われる。そうなれば、死ぬのは心消だ、とな。


良村を使って、かわそうと考えたんだろう。だから、言った。『もし、忍びの結びに良村も加われば、仕掛けず助け合う』と。


忍びの結びに、忍びの居ない村が加わるなど、有り得ない。


影だけでは結べないからと、天霧山へ向かった。雲に会うんだろう。


雲は良村との繋がりを、欲している気がする。だから、影と雲が何を話したのか。障りが無いなら、雲から聞けるだろう。



「なぁ、シゲ。心消と付き合う気かい?」


「いいや。守から逃げるようなの、信じられない。」


タケの問いに、迷わず答える。



皆、思った。


犬を物扱いするのは、他の命も軽んじる。一人助かれば、それで良いと考える。


死んだ早稲わさおさ、ジン、タツ。ヌエ、ヒト。少しは違うのも居たが、他のも。



腹を蹴り上げ、地に叩きつけ、踏みつける。楽しそうに笑って、騒いで、奪う。そんな酷い事、人なら出来ない。だから、人では無い。



好きでは無い人も、いる。


だからって虐げない。避けるか、飼い主に頼む。『怖いから』とか、『近づけないで』と。


怖がらず犬に近づき、物扱いする。そんなのは、信じられない。そのうえ祝辺の守を避けるなど、信じられるワケが無い。





「犬を物扱いするのは、な。」


シンがボソッと言った。



商いで、いろいろな村や里、国へも行く。


犬を酷く扱う人は、人にも酷い事をする。仔犬を物扱いする人は、子も物扱いする。聞いたんじゃ無い。見て、学んだ。


犬を飼うのは、骨が折れる。


守って、教えて、育てる。餌をやり、歩かせ、洗い、撫でる。人と暮らせるように、厳しくしつける。それが出来ないなら、犬を飼ってはイケナイ。


忍びが犬を欲しがるなんて、おとりか何かに使うとしか、考えられない。連れて歩けない忍びが、犬を飼えると思うかい?



「まぁ、難しいだろうな。オレは心消と付き合う気は無い。けど、心消の長の証を預かったんだ。とりあえず、待つよ。みんな、それで良いかい?」


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