6-92 心消はねぇ・・・・・。
「次は、忍びの事。」
オロチ様から伺った。
良山に近づいた忍びは、二人。心消の影と、上木の緋。近づいたのは、共に夜。マルコが気付いて、駆け出した。
石積みの社で確かめて、舟寄せ。それから森川を下って、山裾の地との境で、足を止めたそうだ。
初めは、心消。
『話があるなら、朝まで待て。嫌なら出直せ』と、オロチ様が仰った。するとな、言ったそうだ。『この仔犬、貰ってゆく』と。
マルコはマルの犬だ。慈しんで育てている。それを飼い主の許しなく、貰ってゆく?
もし取られたら、マルは心を閉ざすだろう。オロチ様の御考えも、同じ。
『命は一つ、捨てる気か』とまで言われて、『止めておこう。まだ、死にたくないんでね』だ。人だろうが獣だろうが、命を軽んじるヤツは信じられない。
明けて直ぐ、また来た。
良山に来たのは、夜遅く。次に来たのは、朝早く。どう考えても、オレたちを軽んじている。
麓の家で待たせて、会って話した。
心消の事、祝辺の守に知られたらしい。獣谷の隠れ里と良村は守り、心消は攻めに使われる。そうなれば、死ぬのは心消だ、とな。
良村を使って、躱そうと考えたんだろう。だから、言った。『もし、忍びの結びに良村も加われば、仕掛けず助け合う』と。
忍びの結びに、忍びの居ない村が加わるなど、有り得ない。
影だけでは結べないからと、天霧山へ向かった。雲に会うんだろう。
雲は良村との繋がりを、欲している気がする。だから、影と雲が何を話したのか。障りが無いなら、雲から聞けるだろう。
「なぁ、シゲ。心消と付き合う気かい?」
「いいや。守から逃げるようなの、信じられない。」
タケの問いに、迷わず答える。
皆、思った。
犬を物扱いするのは、他の命も軽んじる。一人助かれば、それで良いと考える。
死んだ早稲の長、ジン、タツ。ヌエ、ヒト。少しは違うのも居たが、他のも。
腹を蹴り上げ、地に叩きつけ、踏みつける。楽しそうに笑って、騒いで、奪う。そんな酷い事、人なら出来ない。だから、人では無い。
好きでは無い人も、いる。
だからって虐げない。避けるか、飼い主に頼む。『怖いから』とか、『近づけないで』と。
怖がらず犬に近づき、物扱いする。そんなのは、信じられない。そのうえ祝辺の守を避けるなど、信じられるワケが無い。
「犬を物扱いするのは、な。」
シンがボソッと言った。
商いで、いろいろな村や里、国へも行く。
犬を酷く扱う人は、人にも酷い事をする。仔犬を物扱いする人は、子も物扱いする。聞いたんじゃ無い。見て、学んだ。
犬を飼うのは、骨が折れる。
守って、教えて、育てる。餌をやり、歩かせ、洗い、撫でる。人と暮らせるように、厳しく躾ける。それが出来ないなら、犬を飼ってはイケナイ。
忍びが犬を欲しがるなんて、囮か何かに使うとしか、考えられない。連れて歩けない忍びが、犬を飼えると思うかい?
「まぁ、難しいだろうな。オレは心消と付き合う気は無い。けど、心消の長の証を預かったんだ。とりあえず、待つよ。みんな、それで良いかい?」




