6-90 明かされる真実
夕餉の後、良村の大人たちが集まり、話し合った。忍びの事、蔦山の事、マルの事。
「魚の川。全ての骸、葬ったらしい。通れるようになっていた。」
センが行って、確かめたのだ。違い無い。
「蔦山の憂い事は、消えた。」
シゲが静かに、語り始める。
早稲の社の司が言っていた事、全て。偽り無く、真。
隠れ里の狩頭が確かめ、同じ事を心消の影からも聞いた。影が偽っていたとしても、狩頭まで偽るとは考えにくい。
隠れ里の狩頭は昔、南の地で忍びをしていた。
雇い主に裏切られ、愛しい人を嬲り殺され、虫の息だった幼子を抱えて逃げていた時、ゲンに出会った。
子は、大きく育った。
顔に負った傷が消えず、クッキリと残っているが、母が命がけで守ってくれた証だ。そう、胸を張る。親も子も、獣谷の隠れ里に救われたのだ。
父子に身寄りは無く、質に取られて苦しむ事も無い。他の狩り人とは、物の見方が違うが、裏切るとは思えない。それに良村へ伝えに来た雲も、同じ事を言っていた。
風見も早稲も、暫くは動けないだろう。
風見の跡取りは、長の器ではない。他に居ないので、務めているだけ。取って代わろうとすら、思わない。何せボロボロ。他に仕掛けたくても、仕掛けられない。
早稲は、ギリギリで保っている。
ヒトは歪んでいるが、愚かでは無い。ヌエとカツが戻るまでは、動けない。耶万と風見が作った薬を試しすぎて、人が居ない。
残った人だけでは、食べ物を得るのは難しい。他から得ようにも、商える品がない。つまり、仕掛ける力など無い。
当てにするなら耶万だが、ゴタゴタしている。
新たな大王は若く、風見と同じ。巫にも覡にも、引き付けるだけの力が無いと聞く。祝と違って、隠や妖怪の力に頼れない。神に頼るしか無いが、どうかな?
「二つ夜が明けたら、こちらへ。ツネさんには朝餉の後、伝える。オレが知っている、全てだ。何か、あるかい?」
「無いようだな。次は、マルの事。」
釜戸山から知らせが来た。
マルの父母が捕らえられ、釜戸社の裁きを受けた。共に、マルは呪われた子だと。祝の力を持たない子など、生け贄にするしかないと、大騒ぎしたらしい。
北山は、強い祝を求めた。
生まれたばかりの祝の子、三つになった祝の子、祝になれなかった祝女。あちこちから攫い、北山の社に囲い込む。
子が産めるようになるまで待ち、力を持つ祝人と契らせる。そうして産まれた嬰児なら、強い力を持つ筈だと。
力を持って生まれても、使えるとは限らない。そういう子は虐げ、闇の力を宿らせる。
鴫山社の、守りの力を持つ祝女が、東山に囚われた。
産まされた子が育ち、川北に。娘まで育って、北山に攫われた。その娘が、清めの力を持つ祝人と契り、マルが生まれた。
清めと守り。二つの力を持って生まれたが、使えなかった。
祝の力を持って生まれながら、使えなかった母と同じ。だから闇に飲ませようと、虐げられた。
「『終いの裁きに、マルを』と、言われた。」
「断ろう。」
カズが言い切る。
釜戸社なら、マルを隠したまま、裁けるだろう。それでも、マルを行かせたくない。




