6-85 蛇神様!
忍んだ事が、人に知られた。犬に気付かれた事はあるが、吠えられたのは初めて。
隠が、人に。
早稲へ逃げ込んだ人の、生き残り。釜戸の裁きで、逃げ出せた。大人は少なく、多くは子。
祝は居ないと聞いたが、違ったか?
「待たせたな。」
長と犬? 見覚えがある。
確か、罰を受け死んだ早稲のが、連れていた。犬をイヌと呼び、痛めつけるとは。ヒドイ飼い主だと、呆れたな。
長が引き取ったのか。鋭い面をしていたのに、同じ犬とは思えない。丸くなったし、毛並みも良い。
「良村の長、シゲだ。話を聞こう。」
「心消の影。隠れ里の長も、兼ねている。」
「心消の長ではなく、忍びとして来た。そう考えて、良いんだな。」
この男。獣谷のとは、違う。
何だ? 強い狩り人なのは、何となく。手負い、そんな生易しいモンじゃ無い。飢えた獣の群れに囲まれ、身動きが取れない。こっちは手負いで、あっちは食らう気でいる。そんな感じ。
雲と違って見えないが、何か居る。
勝てない、逃げられない。敵ではないと認めさせるには、忍びでは無く長として、話さなければ。
「忍びは、名を明かさない。そうだな。」
「その通り。」
・・・・・・しまった!
祝辺の守に、天霧山へ行った事が知られた。里まで知られれば、木菟と同じように、使われ兼ねない。
沢出神は水の神。使わしめは、熊。おっとり、ノンビリして為さる。御守りくださるが、有難いのだが、どうか御力添えを。
心消の祝には、先読の力。社憑きには、晦ましの力がある。しかし霧雲山には、天と地がひっくり返っても勝てない。里を守るには、守るには!
「縋るか。」
・・・・・・考えを、読まれた。
「オロチ様。オレは長として、影を信じられません。」
「そうだな。コヤツ、良村を使う気だ。祝辺の守を、躱すために。」
オロチ様? ウチの祝のように、良村のも従えられるのか。それも隠。妖怪ではなく、隠を従える祝だと?
マズイ、マズイ、マズイぞ。
それでは守と、同じではないか。いいや、違う。隠の守は、人だ。この感じ、人では無い。獣でも無い。
締め上げられるような、搦め捕られるような。蜘蛛か蚕の糸? 違う、糸より縄だ。オロチ、大蛇か!
「如何にも。で、どうする。」
犬憑き、蛇憑き、狐憑き。
憑いた人や、家を栄えさせるが、他は。害すると思われれば、滅ぼされかねない。蛇。しかも人に憑ける、大きな。
どう考えても、神だろう。
崇められ、祀られた蛇神。なぜだ、なぜ良村に! 今は、それどころでは無い。
「蛇神様! 申し訳ありません。心消に御力添えを。」
「断る。心消が良村を軽んずるように、我は心消を軽んずる。」
「そ、のような。どうか!」
「犬には何もしなくとも、人には何かする。それが、心消の影なのだろう?」
「なぁ、影。祝辺の守に知られては困る事とは、何だ。何をした、何をしてきた。」
シゲが、静かに問いかける。




