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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
旅立ち編
25/1617

2-15 胸開く

朝。晴れている。


「おはよう。」


「おはようございます。ゴロさん、タロさん。」


二人とも、もう起きてたのか。早いなぁ。


「おはようございます。ゴロさん、タロさん、コウ。」


ツウだ。笑ってる。


「おはよう。ツウ、よく眠れたかい?」


「はい。ぐっすりと。」


「そりゃぁ、よかった。さあ二人とも、顔を洗っておいで。」


「はい。ツウ、こっちだよ。」




鷹山にある狩り人の小屋は、川のそばにある。山の泉から、サラサラ流れている。


とても穏やかで、やさしい川だ。鷹山にも、となりの鷲山にも、おいしい水が湧く泉が、いくつもある。


谷の向こう側は、際まで山だ。でも、こちら側は少し開けている。だから鷹や鷲が多い。獣も住みやすいのか、とても良い狩り場だ。



「わぁぁ。川床まで、透けて見える。」


ここに来た時、急いでいた。でも、今は違う。ゆっくり見せてあげよう。とても美しい川だから。


「とても澄んでるんだ。飲んでごらん。柔らかくて、おいしいよ。」


白くて、小さな手を川に浸す。微笑みながら、両手でスゥっと掬って、コクコクッと飲んだ。


「おいしい。とっても、おいしいわ。」


ツウが輝いて見える。幸せだなぁ。


「コウ。」


あっ、見蕩れちゃった。


「うん。よかった。」


並んで、パシャパシャと顔を洗った。気持ちよさそうにしているツウに、また見蕩れそうになる。


「そろそろ行こうか、ツウ。」


水を汲んでから、そっと声をかけた。




「戻りました。」


「ああ、おかえり。水を汲んでくれたのか。ありがとう。」


村を出てから、そんなに経ってない。なのに、なんだか昔のことのような気がした。


「朝餉にしよう。手伝っておくれ。」


ゆったりとした心持ちになる。幸せだ。ゴロさんがいる。タロさんがいる。ツウがいる。笑っている。


ずっと、ずっと、いつまでも続くといいな。爺様、ミツ、見守ってくれるかい?


みんなで楽しく、おいしい朝餉を食べた。すっかり片付けてから、ツウに話した。これからのことを。




すべてではないが、だいたい話し終えた時、静かにゴロさんが立ち上がった。


タツが来たのか?それはないはず。あの時。引くと狩りの神に誓って、川下へ消えた。


イヌを連れていたから、洞のある岩から見えなくなるまで待った。隠れるところなんてない。ずっと、ずっと川下まで下がったはずだ。


オレは目がいい。見えなくなるまで、動かなかった。ツウを見られたら、すぐに攫われると思ったから。


あの谷からここまで・・・・・・。二日はかかる。まだ、谷にいるはずだ。




「嵐がくる。」


ゴロさんが低い声で、ゆっくりと言った。山の空は変わりやすい。オレは空を見上げた。


よく晴れている。雨のにおいもしない。でも、ゴロさんが言うんだ。間違いない。


「昼になるずっと前、嵐が来る。荒れるぞ。出るのは、嵐が過ぎてからにしよう。今から向かえば、雷に打たれるかもしれない。待とう。ここにいれば、危なくない。」


少しでも早く、釜戸山に入りたい。でも、嵐が来るなら待とう。ジロさんが重い、重い声で言うことは、いつだって、そうなる。外れない。


「ツウ。嵐が去るまで、ここにいよう。」


「そうね、そうしましょう。」


ドキンとした。あれっ。今のは・・・・・・。ツウがオレを見つめてる。あっ、また!えぇっ? オレ、どうしたんだろう。


ゴロさん、どうしてニコニコしてるの? タロさん、フンフンと頷いている。


よくわからないけど、オレもニコニコして、フンフンと頷いてみた。


「プッ。ご、ごめんなさい。なんだか、おかしくて。」


ツウが笑った。オレも笑った。ゴロさんも、タロさんも笑っている。心がポカポカした。


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