6-82 バレちゃった
スヤスヤ眠る、良村の良い子たち。その側で、寝そべるワンコ。グッスリ眠っているが、何かあればムクッと立ち上がり、そっと外へ出る。
他の犬は夢の中。しかし、マルコは目を覚ます。
「クゥゥ。」 シラナイニオイ。
マルを起こさないように、そっと離れた。抜き足差し足、忍び足。外へ出ると、石積みの社まで走る。そして、気付く。知らせなきゃ!
「大蛇。あの早さ、忍びだ。釜戸山で嗅いだ事の無い、知らない忍び。」
「なぜ、忍びだと。」
「獣じゃない。人なのに早い。馬に乗ってナイ!」
「・・・・・・確かに。だが、山に入って居らぬ。」
「ノリさんがいないんだ! って、あれ。」
マルコが駆け出した。
「ウゥゥ、キャンキャン。」 ウゴクナ、シノビガナニシニキタ。
話があるなら、昼に来るハズ。夜に来たって事は、盗むか奪うか。何を盗る気だ、何を奪う気だ。近づくな、帰れ!
「驚いたな。仔犬に気付かれるとは、まだまだか。」
「ウゥゥゥゥ。」 イマスグカエレ。
「そう呻るな。犬には、何もしないよ。」
「人には、何かするのか。」
大蛇が、低い声で囁く。
「・・・・・・? 誰だ、忍びか。」
「隠だ。人よ、話す気があるなら、朝まで待て。嫌なら、出直せ。」
「この仔犬、貰ってゆく。」
「許さぬ。命は一つ、捨てる気か?」
「止めておこう。まだ、死にたく無いんでネ。」
「・・・・・・行ったか。」
「そうだね、鮎川を越えた。次は東だ、まだいる。」
「マルコは戻れ。我が行こう。」
「分かった。」
タッと村へ戻るマルコ。大蛇は東へ飛び、蔓川の向こうで立ち止まり、動かない忍びに問う。
「上木よ、何用か。」
「・・・・・・? 誰だ、忍びか。」
「フッ。心消もな、同じ言の葉を吐きよった。」
「知られて、焦っただろうね。」
天霧山で、忍びの集まりがあった。
出たのは水月の桧、見空の梟、糸遊の月、心消の影。そして、矢弦の雲。五人の忍頭が、祝辺の守に知られたくないコトを、イロイロと。
我ら緋は、呼ばれなかった。知られていないから、呼びようが無い。それにしても、なぜ。
上木なんて、ずっと南の隠れ里。田も、畑も無い。なのになぜ、上木を知っている?
「我は隠ぞ。神として祀られていた、蛇だ。水筋から辿れる。」
「・・・・・・良村の神?」
「あの山に御坐すは、大実神。使わしめは犲。」
「蛇神様。もしや、人に憑いて御出でか?」
「悪いか!」
「いいえ、とんでもない。」
霧雲山を外したのは、殺めるため。
木菟も鷲の目も、祝辺の守の使い。苦しめ傷つけても、命は奪わぬ。もし殺める話になれば、直ちに止める。そういう忍びだ、アレは。
霧雲山の忍びは、木菟と鷲の目。統べる地の忍びは桧、梟、月、影、雲、緋。他にも居るが、言わぬ。
人は裏切る。
忍びが守るは、里。他は滅んでも、気に病まぬ。もし、上木に禍が。そうなっても、口を噤むか?




