6-80 真だとしても
次から次へと送られていた兵が、送られて来なくなった。
幾日か後、魚川に舟が入った。水手の他に、男が一人。白い布を持って、大きく振っている。
「早稲の社の司、シギ。蔦山の長に、申し上げたく。」
布を振りながら、叫んだ。
「長、罠です。」
「舟に矢を当てよう。山には入れない、近づけない。」
狩頭から矢を受け取り、放つ。
「舟を降りろ! 近づくな!」
「分かりました。そのまま、お待ちください。」
舟を寄せ、川の縁に。
シギが飛び降り、舳を持って押さえる。水手も舟を降り、二人で引っ張り上げた。
水手は両の手を真っ直ぐ上げ、舟から離れた。ゆっくりと屈み、膝を抱える。
「蔦山の長。お会いして、申し上げたい。」
「聞かれて困る事か。」
「いいえ。」
「では、そこで。」
魚川は広いとはいえ、谷川だ。良く響く。大きな声を出し続けるのは辛いだろうが、止むを得ない。
社の司だと言うが、真か。だとしても、早稲は信じられない。聞かれても良いなら、皆に聞いて貰おうじゃないか。
骸を葬るのは、それからだ。あれだけ多ければ、熊もヤツらを狙わない。話によっては、近づく熊を追い払う。
「この度の戦、我らの負けです。引きます。」
「なぜだ。また攻め入る気か。」
「いいえ。もう攻めません。」
「信じられない。」
「耶万、風見、早稲。この地へは、決して仕掛けません。」
「証は。」
「ありません。」
証が無ければ、信じられない。
人とは思えないような、獣のような人を、あれだけ多く差し向けて。風見の倅を討ったのに、次から次へと送り込んで。
耶万。
風見は早稲だけで無く、耶万とも。あんなに多く、長く送り続ける力を持つ国。シゲが言っていた、大王のいる国か。
・・・・・・南には大きな国が、幾つもある。その一つが、耶万。
シギと言ったか、あの男。・・・・・・祝辺の守が、動かれたか?
「何があった。」
「耶万の大王、跡継ぎの倅、巫、覡。風見の長。皆、殺されました。」
「なぜ、どうやって。」
「胸や頭を、射貫かれて。」
だから、何だ。我らは何も・・・・・・。
狩り人は、人を殺さない。妖怪は、弓など使わない。残るは、忍び。木菟か、鷲の目?
守の使いが殺すとは、考えられない。他にも忍びが・・・・・・いる。霧雲山とは、限らない。他の山にも忍びがいて、耶万へ差し向けた。
「信じてください。早稲も風見も、耶万も。もう決して、この地を攻めません。仕掛けません。」
「それが真なら、使いを乱雲山へ。」
この地に攻め入った裁き。国と国との、話し合い。仕切るとすれば、乱雲山だ。霧雲山が動くとすれば、その後。




