6-79 終戦
耶万で長が殺され、風見の長になる筈だった兄は、血を吐いて死んでいた。
・・・・・・殺されたんだ。祝辺の守が放った、忍びか何かに。
父と兄を支えていた、倅の一人は悟る。
山裾の地に手を出せば、死ぬ。祝なんて、巫や覡と同じ? 違う。違うのだ!
闇に紛れて命を奪う、闇を纏って命を奪う。
遠く離れた地であっても、多くの者に守らせていても、人の目があっても、明るくても、奪える。
霧雲山、祝辺。
怖く、恐ろしい祝。とんでもなく強い力を持つ、祝。見えない何かを、従える祝。死んでも、守り続ける祝。そんな祝たちを纏めるのが、祝辺の守。
ただの噂だと思っていた。とんでもない! 居たのだ、居るのだ。祝辺の守は、確かに居る。睨みを利かして居る。
早稲が言っていた。釜戸山にある、釜戸社。その祝が、多くの村や国を裁くと。霧雲山から、任されていると。
それが何だ、大した事では無い。あの時は、そう思った。大王でも無い、ただの祝に、何が出来るのかと。
甘かった。
狩り人、狩頭、忍び。誰も戻らなかったから、分からなかった。いいや、違う。気付かなかった、気付けなかった。
村や国を裁けるのは、祝辺の守が認めた、祝だから。そんな祝が、一人しか居ないなんて、有り得ない。他にも居るハズ。居るのだ、幾らでも。
大王が居なくても、大国で無くても、揺るがない。霧雲山という名の大国に、愚かにも挑んでしまった。そして、敗れた。
あれだけ送り込んだのに、あれだけ揃えたのに、勝てなかった。
耶万と手を組み、さらに送った。送って、送って、送って。誰も戻らないから、忍びを放った。
なぜ、止めなかった。
忍びを三度も送り、戻らなかった時、引けば良かった。暴れ川から攻めるのは止めて、鳥の川から攻めようなど、なぜ考えた。
足がかりにしようと、蔦山を攻めた。
早稲と組んで、耶万の夢に手を加えて持たせ、攻めさせたのに、負けた。長引かせれば、勝てる筈なのに。数では、勝っていたのに。試させたのに。
引こう。今、直ぐ引こう。殺されたくない、死にたくない。引かなければ、消される。求めては、いけない。欲しては、いけない。況して攻めるなど。
早稲も引く。
ヒトは勝てないと気付いていたから、耶万へ行く風見の長を見送って直ぐ、動いた。・・・・・・霧雲山の力に、恐れをなして。
カツはシブトイから、戻るだろう。ヌエは生きて戻るかどうか、分からない。父さんも、ジン兄も死んだ。
シンは当てに出来ないし、頼れない。
兄のクセに、オレたちを捨てた。他所のと、出て行った。母さんが同じってだけで、父さんは違うから。
残ったのは、ヌエだけ。
しくじった、気付かれた、見つかった。それで、捕まった。攫うなら、小さくて弱い村を狙えよ。
釜戸山の灰が降るなら、村も国も変わらない。・・・・・・まぁ、オレも知らなかったケドさ。
早稲を滅ぼしちゃ、いけない。残して、次に繋がなきゃ。
オレもヒトも死んだら、誰が早稲を守る。オレは死ねない。死んでたまるか!
耶万だって、風見だって、引くしか無い。
こっそり裏切れば、気付かれない。裏切られる方が悪い。だから裏切る。生き残るため。
耶万も風見も早稲も、蔦山から手を引いた。長く続いた戦が、やっと終わる。




