6-78 終わらせるため
ツネは案じていた。蔦山にいる、皆の事を。
『落ち着いたら迎えに行く』って、父からの事付け。信じて待っているけれど、遅すぎる。
良村の人は皆、とても良くしてくれる。蔦山の子らも、いろいろ学べて楽しそう。でも、なぜかしら。とても心細い。
父無し子になど、決して。
テルね、育つって。大きく育つって。・・・・・・父さん、いつまで待てば良いの。このまま会えないなんて、無いわよね。信じてる、信じたいの。だから、お願い。
蔦山の戦いは、続いていた。
シシ、サン、トモ。討たれた倅の敵を討つ気で、挑む。
風見の長は、気付かない。
いつまでも続かない事に。勝てない事に。この戦は、長引かせた方が負ける。
蔦山の後ろには、多くの人がいる。戦い疲れて折れるなど、有り得ない。
矢も毒も、山の外から届けられる。釜戸山、日吉山、岩割山。鑪山、天霧山、乱雲山。狩り人、釣り人、商い人。樵、忍び、祝。
釜戸山の灰の降る地では、村も里も国も、何かあれば助け合う。そう決められている。
霧雲山。祝辺の守が腹を括れば、妖怪が動く。平良の烏に乗って、隠の守が社まで。人など、勝てない。
南の地。
早稲も風見も耶万も、奪い合い、潰し合うだけ。助け合おうなど、思わない。考えもしない。人が足りなければ、攫えば良いと思っている。
早稲で試した薬を使わせ、死ぬまで戦わせる。それを悪いと思わないし、弱いのが強いのに使われるのは、当たり前だと思い込んでいる。
「まだ、戻らんのか。」
「はい。もう戻らないモノとして、新たに。」
「送れ。」
耶万の大王は、苛立っていた。
巫も覡も、弱い。戦えない。奪える、攫える、連れ出せる。それなのに、なぜ一人も。
逃げたのか、殺されたのか。送った十人、一人も戻らない。有り得ない!
逃げたのだ。
殺されたくなくて、質を見捨ててでも、生きたくて。ならば、送るまで。男は北、女は産ませる。
何が何でも、勝ってやる。奪って奪って、奪い尽くす。
北の地を手にすれば、人も食べ物も全て、ワシの物。王とは、従える者。平伏せ、地を這え、全てを捧げろ。
弱いから死ぬ、弱いから負ける。死にたくなければ、強くなれ。負けたくなければ、戦え。
「ヒドイね、生かしておけない。とりあえず、消すか。」
桧、サラッと。
「ついでに巫と、覡も。」
梟も、サラリ。
「耶万の夢は、手に入れた。消すなら、急げ。」
月が囁き、ニコリ。
「風見の薬も、手に入れた。夜まで待て、大王と風見の長が、宴に出る。」
影がスッと現われ、ニタッ。
「誰が、誰をやる?」
雲まで。
桧は、耶万の大王。月は、次の大王。梟は、巫。雲は、覡。影は、風見の長。みんな仲良く? 一人づつ。
忍びって、オソロシイ。




