6-77 逃げれば良し、進めば
流山は良山の南にある、大きな山。
大雨が降ると山が崩れ、ドドッと流れる。流れ流れる度、頂が低くなるのだ。周りの山に堰き止められて、平らに。
霧雲山の統べる地は、水に恵まれている。森も豊かで、嵐が来ても崩れない。とはいえ、大雨が続くと崖が増え、川の流れが変わってしまう。
幸いな事に、良山は強い。崖はあるが、シッカリしている。獣谷も強いが、良山に比べると、泉や沢が少ない。
「『雨が降ったら逃げろ』の?」
商い人のシンでも、流山の事は知っている。
「鳥を狩るには、良い山だ。」
良く晴れて、乾いた日。渡り鳥を狙って、入った。クロは良い狩り犬だ。氷は避けるし、土の上で滑ったり、転げたりしない。なのに、ズルッと。
足を取られ、犬の力では動けない。
直ぐに駆け寄り、引っこ抜いた。そのまま抱えて山を下り、沢で洗う。ムロはクロを宥めながら、もう流山には入らないと決めた。
「まさかとは思うが、住み着いたのか。」
流山の話は、語り継がれている。譬え知らなくても、あの地に立てば、暮らそうとは思わない。
カズは逃げ帰った。固い木を探して入ったが、開けた地を見て直ぐ。
「その、まさかだ。」
耶万の誰も、気付かないのか?
良山と違って、大きな川に近い。鳥が多く飛んでいるから、見つけやすい。舟で近くまで行けるし、沢伝いに、強い風が吹く。上に開けた地が、あるんだなと。
あんな山の上に、広くて平らな地があれば、思う。なぜ、村が一つも無いのかと。踏み入れば、気付く。なぜ、こんなに泥濘るむのかと。
樵じゃなくても、狩り人じゃなくても、何かオカシイと思う。太い木があって、鳥が多い。なのに、なぜと。
耶万は、早稲や風見と同じ。逃げられない弱い人たちを、人とは思わない。虐げても、攫っても、奪っても良いと考えている。
霧雲山の統べる、山裾の地。
豊かで、多くの人が暮らしている。人も食べ物も、奪い尽くせる。思い通りに出来ると、信じて疑わない。
守らなければ。
やっと早稲を出られたのに、和やかに穏やかに暮らしてるのに。子は宝だ。怯えず飢えず、幸せになってほしい。
オレたちの手は、血塗れだ。強いられたとはいえ、多くの命を奪った。だからこそ、子らに同じ思いをさせられない。させたくない。
「消すか。」
センがボソッと言った。
「・・・・・・守りを固めよう。」
良山から見て、蔓川の外。白縫川の外。南からなら、暴れ川か曲川。川を越えたら、仕留める。そのための罠だ。
隠れ里から貰ったのや、早稲から持ってきたのは、使わない。南の物が仕掛けてあれば、オレたちが近くで暮らしていると気付かれる。
川の外へは、古い手を使おう。
草を結ぶ、縄を張る、竹を撓える。掛かれば転ぶし、当たれば痛い。転んだ先、蹲る先に、石器を仕掛ける。
良山の裾から川の間は、兎とシシの罠を増やす。獣が通るから、仕掛けても疑われない。
念のため、鳴子を。
そうだな。渦の滝の東と、重ね崖の上に。流山の東に、村があると思わせる。
「逃げれば良し、進めば。」
シゲの声が低い時は、見えている。敵の骸が。




