6-75 鼻が利くのは生まれつき
今は休もう。このまま戻っても、使わしめとしては心許無い。
「マル。使わしめとしてでは無く、オミとして、守ると誓おう。」
ありがとう。
「さあ、マル。村に戻ろう。マルコが待っている。」
はい。ヘグさん、オミさん。さよなら、またね。
大蛇の背に乗り、手を振るマル。梟のヘグは翼を、犲のオミは尾を振り、見送った。
良村の人たちを驚かせないため、大実社の近くで、下りた。
浮いて近づくマルを見れば、驚く。
ノリならアッサリ、『隠にでも乗ってるんだろう』と言って、片付ける。しかし今は、村を離れている。
良村の犬の中で、最も鼻が利くマルコ。
マルが戻ったと気づき、大喜び。ルンルンで小さな泉まで行き、お出迎え。降り立つと駆け寄り、尾をフリフリ。
釜戸山の犬は、他の犬より鼻が利く。
鳥の川なら、段の滝あたり。大川なら、真ん中あたり。山からなら、谷を越えれば、直ぐ吠える。
マルコは小さい。仔犬の中でも、特に。小さいが、釜戸山の犬から生まれた、使い犬である。
マルの犬になり、良村で暮らしているが、鼻が利くのは生まれつき。
「キャ、キャン。」 マル、オカエリ。
あれ? 知らない臭いだ。梟だね。この感じは、隠だ。
「ホウ。良く判ったな、マルコ。」
「クゥゥ。キャン。」 ワカルヨ。ダイスキ。
マルがギュッとして、ほっぺをスリスリしてくれた。お礼にペロペロしたら、フフッて笑った。嬉しいな、幸せだな。
「帰るか。」
帰りましょう、みんなで。
「キャン。」 カエロウ。
「おかえり、マル。マルコ。」
「たたいまっ、こぉのっ、さぁん。」
「キャン。」 タダイマ。
「マルコと山歩き?」
「はいっ。ちぃさぁい、いずぅみぃ、まぁでっ。」
「石積みの社ね。」
コノに手を引かれ、家へ。マルコもトコトコ、ついて来る。
良山は罠だらけ。一人で歩くのは危ないと、止められている。とはいえ、犬飼いは別。朝は、ノリかシゲと。夕は決められた、危なくない道を、マルコを連れて歩く。
夕餉を食べて、片付けて、おしゃべりして、お休みなさい。子らはグッスリ、夢の中。
「まだ優れないが、良くなってきた。」
「木菟をこんなに苦しめるなんて、怖ろしい薬ね。」
コタとコノが見合って話す。
「化け王が差し止めるくらいだ。それに・・・・・・。」
「何だい、シゲ。」
「ゲンから聞いた話だが。」
化け王が差し止めた、赤い花から作られる薬。
咲いていない花を求めても、手に入らない。ならばと、やまとの花や草、山や海の毒を混ぜて作った。
その危ない薬を早稲に流して、試しているらしい。それも若いのや、子に。
「それ、マズイな。」
カズだけではない。その場にいる、皆が思った。




