6-74 休養を取りましょう
体が軽い。あんなに苦しかったのに、楽になった。
目が・・・・・・見える。ぼやけてはいるが、光に包まれて。温かい、優しい、力。これは祝の、そうか。間に合ったのか、私は。
「オミ、オミ。」
オミさん、聞こえますか?
マル。初めて見た時、思ったよ。この娘には、力が有ると。
傷だらけなのに、魂は清らかで。苦しみ悶えながら、それでも生きようと努めて、折れてしまったんだと。
見守るつもりだった。眠ったままの祝の力、子が受け継げば良いと。
大実神が御隠れになり、一人残されたとしても。使わしめとして、いつまでも、いつまでも。
良村で育てば、幸せに暮らせるだろう。
あの人たちは、心に深い傷を負っている。だから、なのだろうか。子は宝だと言い、守り慈しんでいる。
祝の力を持つ子よ、マルよ。良山で暮らし、幸せに生きておくれ。
好いた誰かと契り、子に恵まれたなら、慈しみ育んで。いつの日か・・・・・・。
「ありがとう。」
どういたしまして。
「良かったな、オミ。」
良かった。・・・・・・良かった。使わしめが闇に堕ちれば、共に根の国へ。国つ神から、禍つ神へ。
霧雲山の統べる地は、海からずっと北にある。
遥か南の地では争いが絶えず、奪い合っている。疲れ果て、生まれ育った地を捨て、新たな地を求め、北へ北へ。
多くの人が移り住んだ。川の近くに、沢の近くに。泉の近くに、湖の近くに。
コロコロ笑って、ノンビリ過ごして。眺めているだけで楽しく、幸せな気持ちに。
大実山から良山へ。
呼び名が変わっても、大実神が御座す限り、豊かな実りが齎される。
あの山は良い。冷えるが、豊かだ。
ずっと昔、春が来ない年があった。
雪解けが遅れ、食べ物が減る。水は氷のように冷たく、風は刺すように冷たかった。
日差しは弱弱しく、厚い雲に覆われ、実りを得ることが難しくなる。
少し暖かくなった頃、嵐が来た。
湖をひっくり返したのかと思うような大雨が、長く長く続いた。それでも、大実山は崩れなかった。
近くの山は崩れ、崖が増えたのに。近くの山は流れ、谷を埋め尽くしたのに。
「起きろ、オミ。」
「??? こ、こは。」
「隠の世だ。ホレ、覚えがあろう。」
「・・・・・・ヘグ、か?」
あの春の来ない年から、大実山は変わった。信じられない程、冷えるようになった。
人々は村を捨て、山を下りた。祀る人がいなくなり、大実神は仰った。使わしめを集められ、『放つ』と。
残ったのは、犲一匹。
神の仰せに、初めて背いた。
御隠れになる、その時まで。何があっても、御側を離れません。縋る私に、好きにせよと。
あれから幾年、経ったのか。ヘグよ、その姿。守に、保ち隠になったのだな。
「暫く、ここで暮らせ。鳥の家だ、犬には狭いが。」
「気持ちだけ。直ぐ、戻らねば。」
「力を奪われ、動けまい。マルとて、力を分けられぬ。出来たとしても、させぬ。」
分けて、あげられないの。
「マルは悪くない。気に病むな。」




