2-14 執念深いと嫌われます。
「コウ、コウ、コウ。」
手に入れる。オレのモノにする。
「逃がさない。逃がさないぞ、コウ。」
待ってろ。このオレが迎えに行くんだ。
「オレのためにだけ、生きろ。オレの、オレの。」
オレの手足となれ!
「ハハッ、そうだ。」
オレのためにだけ。そうだ、そうだ!
「アハッ、アハハハハ。」
そうだ。そうだ!
「・・・・・・。」
聞かされるイヌの身にもなれよ。くどい、くどすぎる。犬もさ、まとわりつくよ。でも、勘違いしないでほしい。『好きな人に限る』つまり、選んでるんだ。覚えとけ。
「ハハハハッ、アァッハッハッハッハ。」
「コウ、オレのコウ・・・・・・。アァッハッハッハッハ。」
渡さない、誰にも渡さない。
「・・・・・・クゥ。」 ・・・・・・ハァ。
帰りたい。
鳥の谷は深い。そして、狭い。釜戸山に近づくほど、川は深くなり、勢いを増す。
大きな石にぶつかって、激しい飛沫をあげるそれは、攻めて撃つようである。滝を過ぎると、傾きが急になる。
昼も暗いが、夜になれば、もっと暗くなる。真っ暗闇だ。耳をつんざかんばかりの水音。冷え切り、鋭くなる。
腰まで漬かりながら、構うことなく進み続けるタツには、見えていないのかもしれない。周りが。流されそうになりながら、それでもついてくるイヌが。
血走った目で、ブツブツ言ったかと思えば、いきなり笑い出す。
「クゥッ・・・・・・ウウッ・・・・・・。」 オイッ・・・・・・、オイッ・・・・・・。
オレは犬だ!泳げるぞ、泳げる。でもな。こ、この流れは、キツイぞ。なっなっ流されるぅぅ。
「アハハハハッ、アァッハッハッハッハ。」
「・・・・・・。」
タツ。前から、何となく思っていた。けど、な。今、はっきりわかった。おまえに番がいないのは、他とは違ってるからだ。褒めてないぞ。好ましくないってことだ。
諦めろよ。あのコウって子、賢いぞ。お前なんか、見向きもされない。それにな、あの岩には、もう一人いた。頼れる人がいるだろう。犬のカンは当たるんだ。
そうだ、オレは犬だ。お前とは番になれない。番にするならメスがいい。あぁ、早く水から上がりたい。帰りたいよぉ。
ジャブジャブ、ジャブジャブ。ジャブジャブ、ジャブジャブ。ジャブ、ジャブ。ジャブッ、ジャブッ。
オイ、タツ!どうした?流されるぞ。っつ、わぁぁ!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」 シ、シヌカトオモッタ。
ブルブルブルッ~。
「クウ。」 ハァ。
あっぶねぇぇ。何か、硬くて冷たいのに当たったけど、水から出られた。もう泳ぎたくないっ!
「クゥン?」 エット?
クンクン。あ、いるな。タツのにおいだ。
「どこだっ!コウ。出てこい。今すぐに。」
オレは、優しいぞ。山で生きるより、オレといたほうが生きられる。生き残る術を教えてやる。
「コウ、コウ、オレはここだ。ここにいる。隠れてないで、出てこい。」
「・・・・・・クゥ。」 ・・・・・・ハァ。
いやいや、タツよ。コウはいないぞ。ここにはいない。オレはな、コウのにおいを覚えてる。信じろ。犬の鼻とカンを。
「ワン。」 キケ。
コウはな。岩にいた、たぶん子だ!その子といる。水から出て、崖の上の、風が吹き込んでこないところで、柔らかい布か何かに包まって、ぐっすり寝てるよ。きっと。
「クウ。」 ハァ。
いいなぁ・・・・・・。




