6-73 禍津国の穢れ
渦の滝。崖の上に、真っ黒い犲が倒れていた。
近づいて話しかけても、ピクリとも動かない。触れようと手を伸ばすと、大蛇がヒョイと抱き上げ、引き離した。
「触れてはならぬ。禍津国の穢だ。」
禍津国?
「高天原に御座す神が、天津神。生きとし生けるものが暮らす、中津国。そこに御座す神が、国津神。死して向かうのが、禍津国。そこに御座すのが、禍津神。」
高天原の天津神、中津国の国津神、禍津国の禍津神。
「そうだ。」
オミさんを苦しめているのは、死に為さった耶万の人で、禍津神に遣わされて、禍津国の毒を・・・・・・くっ付けちゃったの? オミさんに。
「禍津神に遣わされたのでは、無い。悪しきモノに取り憑かれ、魂が穢れて歪んだまま、禍津国の穢を纏って、戻ったのだ。」
戻れるの?
「稀にな。しかし直ぐ、連れ戻される。若しくは返される。耶万の五人の魂は、我が投げ込んだ。」
大蛇、触っちゃったの? どうしよう、えっと。
「案ずるな。マルよ、落ち着け。」
そうね。大蛇から悪いモノ、出て無い。
「禍津国はな。中津国の、あらゆる罪や穢の集まる所なのだ。それらを纏った耶万らに、オミは。」
大蛇は良くて、オミさんは。どうして?
「弱いのだ。国津神は、人の思いから現われ出られる。思いが消えれば、そのうちに。使わしめは、隠や妖怪。力を失う事は無いが、弱くなる事は有る。」
弱く・・・・・・なり為さったのね。
出来る事を、しっかりと。大蛇が私を、オミさんを助けるために呼んだんだもの。
でも、大蛇に助けられないのに、私に助けられるのかしら。いけない!シッカリしなさい、マル。
シゲさんが言ってた。出来る事を、コツコツすれば良いって。
初めから出来る人はいないし、思いっきり努めたら、いつか必ず出来るようになるって。
大蛇が教えてくれた。祓いたいと思って、手を翳すと祓える。だからこう、思いを込めて。
・・・・・・オミさんは、犲です。大実神の、使わしめです。悪い、黒いモヤモヤが、オミさんを苦しめています。
大蛇が教えてくれました。私には祝の、清めと守りの力が有るそうです。だから私、マルは信じます。きっと、きっと。困ったり苦しむ全てを、守れると。
天津神様、国津神様、禍津神様。私の中に眠っている、祝の力。使う事を、お許しください。
私、良い祝になります。きっと、きっと、なります。みんなを幸せに導く、良い祝に!
悪いの、悪いの、消えて無くなれ! 初めから、真っ黒く無いよね。祓いましょう、清めましょう。
サラサラ流れる、沢のように。キラキラ輝く、川のように。美しい光に包まれて、優しい風に包まれて。
濃いのが薄く、薄いのが淡く、淡いのが白く、白いのが透けて。どこまでも高く、高く。
マルを連れて、戻った時。撓に実った稲穂の色から、月のない夜の、闇の色に変わっていて・・・・・・。大蛇は思った、遅かったと。
闇堕ちした使わしめは、神に穢を移してしまう。そして共に、禍津国へ。
オミには悪いが、マルが怯えてしまわないように、向き合えるように話した。そして、今。
あんなに濃かった穢れが、祝の力によって祓い、清められた。




