6-72 大好きだよ
「悪かった。」
「解って頂ければ、それで。」
大蛇とオミ、仲直り。良かった、良かった。
「で、オミ。なぜ隠れて居ったのだ。」
「耶万の魂。触れただけで、こうなるからです。」
オミの右の前足が、真っ黒。足だけで無く、鼻先から目の辺りまで、黒ずんでいる。
「大実神は。」
・・・・・・。
「肥えた地の、実りの神で在らせられたか。」
「はい。」
八百万の神の国、やまと。
神は望まれることにより、現われ出られる。神とて、全てに巧みなのでは無い。叶う事、叶えられぬ事が。
天つ神ならば、或いは。国つ神、しかも御隠れになりそうな・・・・・・。難しかろう。
中つ国の穢であれば、我にも清められる。しかし、根の国。穢れた魂の、歪んだ穢となれば、我には。清めの力を持つ祝であれば。
「マルか。」
「はい。」
マルには、祝の力がある。清めと守りの力が。しかし今のマルに、祝の力が使えるかどうか。
あの子は、強い。良村に引き取られ、心に叩きつけられた痛み、負わされた傷も少しづつ癒え、言の葉も出るようになった。とはいえ、まだ早い。
釜戸社の、ナガに頼め。祝の父だ。強い清めの力を持つ。隠の世から行けば、早いだろう。
「それが、断られまして。」
穢れが、足から胸へと広がっていた。このままでは、闇に堕ちる。
「オミ、ここで待て。マルを連れて来る。」
「はい。宜しくお願いします。」
大蛇は急いで、良村へ戻った。パアッと明るい顔をして、マルが抱きつく。思わず、デレッ。
「キャ、キャン。」 ネエ、マルコモ。
大蛇だけ? いいなぁ。僕にもギュッとして!
「ハハハッ、羨ましいかい?」
「キャン。」 ウラヤマシイ。
わぁい! 抱っこ。大好きだよ、マル。
おかえり、大蛇。
「ただいま。マル、頼みがある。」
私に出来ることなら。
「オミをな。祝の力で、清めておくれ。」
オミ?
「我と初めて話した、小さな泉。石を三つ重ねた社に、小さな人の姿をした神が、在らせられた。」
マルコと初めて山歩きした、あの時の神様ね。
大実神。使わしめの犲が、オミさん。大蛇、オミさんと仲良しなのね。私も仲良く、なれるかしら。
ノリさんが教えてくれたわ。この山には、犬が多いって。私、ワンちゃん大好き。ウフフ。マルコったら、拗ねないの。
まぁ。オミさん、動けないの? 急いで向かわなきゃ。
清められるかどうか、分からない。けれど大蛇、私をオミさんの所へ、連れて行って。
「マルコは残れ。」
「キュゥゥゥ。」 ボクモイキタイナァ。
僕には清めの力なんて無いけど、マルの側にいたいよ。
「マルコに何かあれば、マルが悲しむ。」
ねぇ、マルコ。必ず戻るから、待っていてね。
「キャン。」 ハイ。




