6-71 壊れた魂
霧雲山の統べる地は、水が豊富だ。あちらこちらに川が流れ、大きな湖もある。
霧雲山なんて、湖だらけ。全ての湖が、川で繋がっている。そんな山の周りにあって、水が少ないワケが無い。
良山の近くに湖はないが、泉や沢は多い。水が噴き出していたり、コンコンと湧き出ている。
となれば、崖も多くなる。雨がドッシャァと降ると、山が水を貯えきれず、ゴゴゴと崩れる。そうして崩れて出来た崖、崖、崖。
最も近い、大きな崖。それが崖の滝。崖の川を下ると、渦の滝がある。大きな崖の上からドバッと、滝壺の中へ水が落ち、ザァァと流れる。
滝壺に叩きつけられ、根の国へ旅立つ魂が叫ぶ。いつか必ず、戻ってくると。
「マル。村から出ては、ならぬ。我は出掛けるが、直ぐ戻る。」
はい、村にいます。ねぇ大蛇、悪いモノが来るの?
「その前に、穢を祓う。」
私にも出来る?
「まだ、難しかろう。」
そう。でも私、諦めないわ! 化け王に認められるような、祝になるの。
「マルなら、きっと良い祝になる。」
ありがとう、大蛇。早く帰ってきてね。
死んだ五人の魂は、耶万へ戻らなかった。
良山に仕掛けられた罠に掛かり、傷を負う。ドクドクと血が流れ、止まらない。血の通る太い管が、切れてしまったのだ。
オレは今、どこにいるんだろう。何のために、ここにいるんだろう。なぜ、こんなことになったんだろう。帰りたい、もう疲れた。
北の巫か覡を、耶万へ連れ帰らなければ。そうすれば、元に戻れる薬が貰える。戻って、家に帰るんだ。それで、それで・・・・・・。
今わに吸った薬で、痛みが消えた。しかし、血は止まらない。命を繋げなくなるまで、流れ出てしまう。
人でも獣でも、死ねば魂が抜け、生まれ育った地へ戻る。しかし、耶万の五人は違った。魂が壊れてしまったから。人が耐えられる量を、超えていたから。
壊れた魂は、北を目指す。人だった頃の全てを、忘れて。
「流され行けば、清められるものを。」
「グギャグギャァ!」
・・・・・、・・・・・、・・・・・。
「はて、困った。通じねば、届かぬぞ。」
憐れ。
根の国へと続く川、流されれば良いものを。人を止め、隠にも妖怪にもなれず、根の国へも行かぬか。
一度、穢れた魂は、祝にしか。もう、戻れぬ。守りたい者を、見守れぬ。
誰も止めては、くれなんだか。止められても、止められなんだか。葬られても猶、抗うか?
人には戻れぬ魂よ。このまま川の流れに身をまかせ、往け。
耶万の五人の魂を纏め、渦の滝壺へ投げ込んだ。崖の滝壺では流れなかった魂が、スッと根の国へ。
「コッコが案じた通りになったな。」
このままでは、この地は。マルは、マルだけは守らねば。何があっても、守り抜く。そのために!
「いつまで隠れて居る。出て参れ。」
・・・・・・。
「蛇を侮るな。臭っておるぞ、ワンコ。」
「ワンコではない、オミだ。」




