6-70 帰っても、良いですか
祝が攫われたのに、取り戻せなかったんだ。そんな社に任せられない。しかも、子だ。
武田が出しゃばるかもしれないが、エイさまが決められた事。釜戸社、良村。敵に回したくないなぁ。オレなら、諦める。
「清めの力を持つ子を、あの武田が。」
「一度、二度、言って。」
「来るだろうな。『武田の子だ、返せ』と。」
武田は飯田と組んで、良村に仕掛けた。玉置、北山、東山が勝てなかったのに、戦い疲れた筈だと。で、あっさり負けた。逃げ帰った。
飯田、愚かだな。茅野の村は、良村と付き合いがある。茅野の狩頭が、取り持ったんだ。
飯田の国。飯田と茅野が一つになって、国になった。
飯田の長は、忘れたんだろう。どう申し込んだのか。
飯田の村は、水が少なかった。泉が涸れ掛けていた。焦って、隣の村に頼み込む。村と村を合わせて、国にしてくださいと。
その時、交わした。決して、戦を起こさないと。茅野を巻き込まないと。
冬の戦に加わって、食べ物を取られた。玉置らに、ゴッソリと。それで困って、良村を攻めた。
頼れよ、助けてくださいって。茅野を通せば、助けてくれたさ。
「良村が頼めば、茅野が動く。」
「飯田の長は、代わったばかり。」
飯田にも狩り人はいる。ソコソコ強いが、茅野の狩り人に比べれば、天と地ほどの差がある。
飯田の狩り人は皆、若い。力でも技でも、決して勝てない。
いくら武田と繋がりがあるからと、茅野の許しなく暴れれば、飯田の国の長は、茅野の誰かが務めるだろう。
その方が、良い気がする・・・・・・。
飯田は茅野に睨まれている。だから、武田に頼られても、応えられない。
「なぁ、クワ。鴫山社の、攫われた祝の話。」
「釜戸社から、問い合わせが来ればな。」
釜戸社も、雲井社も。祝辺の守が繋いでいる。
釜戸山にも乱雲山にも、忍びがいない。矢弦社へ使いを出すか、使わしめに頼むか。鳴さまとポコさま、仲良しだし。
祝の仰せなら、従うさ。雲から申し出る事じゃない。
雲ってのは、流れるモンさ。北へ南へ、東へ西へ。風に吹かれて、ゆったりと。
忍びだからね、裏切らないよ。敵は欺くけど。
「祝女の孫、幸せか。」
蛇の妖怪に問われた。蛙、亀、鴫、蟹。水辺で生きた妖怪たちが、側からジッと見ている。
「良村にいるマルは、幸せそうだった。」
「会いに行くか。」
「行こう。」
「まずは、使いを。」
「驚くか。」
「そりゃ、驚くだろう。」
楽しそうに語らう、妖怪たち。驚くだろうな。マルを守る蛇、大蛇だぞっ。
糸の村から、弓の村へ戻った。ウサに呼ばれて、家に入ると・・・・・・。
帰っても、良いですか。
忍頭と力頭、そして長。ウサ、まさか。アァァァ、そうか。ツサの家に妖怪、向かわせたな。それで、こうなったと。
「聞こうじゃないか、クワ。」
弓長、ウサ。元、忍頭。とっても腹黒い。




