6-68 子や犬に好かれるのに、悪い人はいない
忍頭の話し合いは、『良村から目を離すな』という事で終わった。
・・・・・・だから、ですか。聞かれて困る話ですか、祝。違うと思いますよ。
「クワ。ノリってのは、どんなだい。」
「大の犬好き。」
「・・・・・・らしいな。」
犬と話せる。犬の隠や、妖怪が見える。犬好き繋がりで、草谷や馬守、岩割とも。
そのうち陽守とも、仲良くなるんじゃないかな。犬好きだからな、あの長。
良山。冷えるが、豊かに実っていた。
イネ、アワ、ヒエ、キビ。ムギ、ソバ、イモ、マメ。エゴマにアブラナ、瓢箪まであった。
山の中にはクリ、トチ、クルミ、タケ。アケビ、ブドウ、サルナシ、マタタビ。ざっと見ただけで、これだけ。
釣り人、狩り人もいるから、魚も肉も食べられる。食べ物に困らない、豊かな村さ。
和やかに穏やかに、幸せに暮らせる。他を攻めようなんて、考えない。
良村の人たちは歪んでいる。早稲にいたんだ、歪みもするさ。けどな、戦嫌いだ。子らに、幸せになってほしい。真っ直ぐ育ってほしいって。
「釜戸山から、子を一人、引き取った。」
「子?」
「北山で虐げられて、言の葉が出なくなった。どうやら、牙の滝から飛び降りたらしい。」
谷河の狩り人に助けられる、ずっと前。
牙の滝壺の近くで、膝を抱えていた。岩割の帰りだったノリが見つけて、北山まで送り届けたそうだ。
楽しかったんだろうな。舟の中で、はしゃいでたって。けど、北山に着いたら黙って、俯いて。
何かがあるんだろうが、早稲にいるよりマシだと思って、北山の長に引き渡した。
『生きていれば、また会える。』そう言って、別れたらしい。
再びノリに会った時、駆け寄って抱きついたって。
言の葉が、出なくなるまで追い詰められて。痣だらけで、引き摺るように歩いてた。
そんなマルを見て、引き取ろうと思った。早稲じゃない、もう引き取れる。良村で守って、育てようって。
オレ、犬好きじゃないけどさ。子や犬に好かれるのに、悪い人はいないと思う。そりゃもう、懐いてた。
「北山の社。親無しを集めて、育ててるだろう。」
「あそこの子たち、北山で生まれた子だけじゃない。攫われた子や、攫われた娘が産んだ子も。」
「マルも、その一人だと思う。」
あの蛇神、はじまりの隠神だ。他の隠とは、明らかに違う。
死にかけて見えるようになった。そんな話は聞くが、マルは違う。わざわざ助けないだろう、人の子なんて。
隠や妖怪が見えるのは、力が有ったから。親か、その親が祝で、受け継いだんだ。
「水が豊かで、祝がいる村か国。心当たりは?」
「・・・・・・多すぎて。皆は、どうだい。」
隠や妖怪たちが見合う。
思い出そうと、首を傾げる。遠くを見る。頭をコツコツ、指で叩く。
人も隠も妖怪も、思い出そうとする動きは、同じ。
どんな力を持っているか、分かればな。
祝がいない小出、山中では無い。獣谷の隠れ里も、違う。小出や山中なら、釜戸社に訴え出るだろう。獣谷なら、力尽くで奪い返す。
霧雲山の統べる地は、水が豊かだ。
どの村にも泉があって、川が流れている。湖がある。村を束ねて、国を作ろうと考える。
そんな村は、弱い。国にしても、弱い。




