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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
231/1633

6-65 戻せなかったけれど


気の毒だと思った。


幸せに暮らしていたのに、引き離されて。戦の具に使われて。いくら狩り人でも。狩るのは獣で、人じゃない。なのに。


耶万やまなんて、近づけられない。付き合いたくない。


早稲わさ風見かぜみも、この地が豊かだと知っている。耶万も聞いて、知ったかもしれない。



風見は再び、攻めて来る。耶万も、攻めて来る。


霧雲山の、祝辺の守へ使いを出して、お知らせしよう。天霧山の、矢弦社やつるのやしろの祝へは、雲から。




人を遣れば、きっと酷いことになる。お願いして、妖怪に。社があるそうだから、祝もいるでしょう。


耶万の大王おおきみめかんなぎおかんなぎの兄だという。


覡は大人で、声が小さい。叫びすぎて、出なくなったとか。巫、は子。強い力を持っていて、兄である大王を慕っている。



神が戦を勧めるなんて、有り得ない。


神は、御守りくださる。遠くから。争いを嫌い、和やかに穏やかに暮らせるように、御守りくださる。



耶万の巫と覡、兄の大王に操られている? まさかね。


でも、そう考えると、見えて来る。


力は有るのでしょう。そうでなければ、人を人で無くす薬なんて、作り出せない。何のために、そんなコト。




大王が求める事を言えば、褒められるから。子が求める事なんて、そんなもの。


褒めてほしくて、それで。だとすれば、止めるのが大人でしょう。



解らない。


慕ってくれる弟妹を矢面に立たせて、裏で好きにする? なぜ、そんな事が出来るの。


王になりたいから? 王になって、大王になって、それで何よ。奪って、奪って。それで、何なのよ!





話し合い、難しそうね。


こちらから出向けば、この地に多くの人が暮らしていると、明かす事になる。何もしなければ、攻めて来る。



やしろで祝に会えれば、話し合う事も。いいえ、そうは。きっと、巫か覡が出て来る。幼い考えを持つ、大きな子が。


ハァァァァ。


いっそ命、奪っちゃう? 悪意おいみたいに魂を剥がして、スパッとやっちゃう?


私にだって、清められるわよ。


熊肉を食べて、力を付ければ倒れないわ。モフモフで心を整えれば、怖い物なんて。ウフフ。




さて、と。そうと決まれば、お伺いを立てましょう。ゴロゴロさまは、神の使わしめ。いくら祝でも、許されない。


あらら? 何か、忘れているような。・・・・・・そうだわ。耶万から薬、奪わなきゃ。




「ゴロゴロさま。耶万の衣の襟に、薬が隠されています。砕けた粉も危ないので、お気をつけください。」


「そうか。コン、猿を集めてくれ。キラ、言伝の岩へ。熊たちに、妖怪の墓場まで舟をと。私は神の御許おんもとへ。」





妖怪の墓場へ、舟ごと運ばれた耶万。


猿たちは薬を吸い込まないように、口と鼻をシッカリ覆い、妖怪払い。舟を傷つけないように縄を切り、熊に開けてもらう。


暴れる耶万の頭、両の肩、腹を、五匹がかりで押さえた。


衣の襟をさぐると、首の後ろの辺りに、薬が隠してあった。小さな壺にいれ、蓋をする。




六匹が、サッと離れた。


代わってゴロゴロ。魂をベリッと剥がし、祓い壺の中へ。


耶万のむくろは、コンの狐火によって、灰に。残った骨は、残らず甕の中に入れた。




魂は祓い清める。しかし骨だけは、幸せに暮らした地へ。


帰したい。少しでも早く、いとしい人の元へ。

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