6-62 雲の笑顔
朝が来た。
顔を洗いに外へ出ると、狩り小屋の側に、来た時にはなかった車が、ドンッと置いてあった。妖怪か何かが、近くにいるのだろう。
ノリに見えるのは、犬と犲だけ。ノリコが吠えないから、良い隠か妖怪だろう。雲と仲良く話しているようだし、放っておけば良い。
「祝からだ、言うぞ。」
「聞こう。」
返して貰えるなら、返して貰おう。舟を作るのは、時が掛かる。しかも洗って、村まで届けてくれるらしい。
耶万が持っていた品を入れた籠は、返さなくて良いと伝えた。オレの考えじゃない。シゲの、良村の長の考えだ。
「ありがとう。助かるよ。」
「あの舟は、熊の妖怪が運ぶのかい?」
「そうだ。四頭いるから、任せるよ。オレは籠を、社へ運ぶ。」
「言伝の岩へ、行かないのかい?」
「行かない。聞き出して、妖怪の墓場へ運ぶそうだ。」
「危ないからな、あの毒。」
真っ直ぐ帰るのかと聞かれたから、帰りに釜戸山に寄って、犬の育て方を聞くつもりだと答えた。少し、驚いていた。
村を守るためにも、犬を増やしたい。譲ってもらえるなら、仔犬を。叶うなら、メスとオスの。そう言ったら、仔犬が産まれたら一匹、譲ってくれって。
気が早すぎる。そう言ったら、大笑いされた。
「なぜ、笑う?」
「いや、悪い。娘を嫁がせたくない、父親みたいだと思ってさ。」
「そう、かもな。」
「ブフッ。」
ノリと話している間に、熊たちは耶万が入った舟を、持ってきた車に乗せた。
源の泉から見えなくなるまで、手を振って見送り、熊たちは言伝の岩へ。オレは、雲井社へ。
雲井社まで、いつもなら急いで向かう。妖怪たちも、慣れたもの。慌てず騒がず、チャチャッと片付け。
飛び出た枝を切り、転がっている岩をどける。もし雲が転んでも、危なくないように。まぁ、転ばないけど。
矢弦神は、軍神。使わしめ鳴は、犲として生きていた時、一匹で熊と戦って相打ち。命と引き換えに、番を守った。つまり、強すぎてコワイ。
社の司は、考える前に突き進む。雲も引くほど、真っ直ぐな男。禰宜には、先見の力があり、頭が良く回る。祝には、人の心を操る力が。
天霧山の忍びは皆、隠や妖怪が見える。軽いのなら、清められる。
矢弦社の祝たちも強いが、雲の腕っ節の強さは、桁違い。熊なんて、軽く倒す。
『人じゃない』と言われれば、『そうだと思った』と答えるだろう。
乱雲山の隠も妖怪も、雲には決して逆らわない。死にたくないから。天霧山への“お使い”は、正しく命がけ。どうぞ、どうぞと、譲り合う。
雲は争いを嫌う。争いにせず、収める。ニッコリと笑って。雲のニッコニコは、隠や妖怪にとって、ヒヤヒヤなのだ。
ニコニコしながら、駆けて行く雲。慄く隠や、妖怪たち。あの籠の中には、身の毛がよだつ、おっそろしいモノが入っているに違いない!
思い込みとは、怖ろしいものです。・・・・・・当たってるけどネ。




