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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
224/1633

6-58 強く願えば


体が重い。頭が痛い。たまに、指がビクッと動く。喉が渇く。ついさっき、水を飲んだばかりなのに。


鷲の目から聞いた。あの耶万やまが隠し持っていた薬、いや毒が砕けて、粉になった。それが風に乗って、風下にいたオレの元へ。


ほんの少しでも、死に至る。そういうモノを、吸い込んでしまったと。


息苦しさを感じてぐ、犬が吠えた。もし気付くのが、ほんの少しでも遅ければオレは・・・・・・死んでいただろう。


動けるようになったら、干し肉をやろう。命の恩人、いや恩犬だからな。




良く、なっていると思う。体は動かないが、頭は動く。


もし、このまま木菟ずくめることになったとしても、悔いはない。オレは、出来る限りの事をした。叶うなら再び、飛びたい。高く、高く。


生まれ変わったら、鳥になりたい。鷲や鷹のように、昼間に飛ぶ鳥に。木菟も良いがな、夜は眠りたい。




「木菟、水だ。震えているが、寒いか?」


「い、いや。さむ、くは、ない。」


そうか、オレは震えているのか。この山は冷えるからな。でも、寒くないんだよな。


副作用、だったか。薬には害をもたらすものがあると、ブラン様が。


死ぬのかなぁ、オレ。霧雲山に、戻りたい。魂だけになっても、這ってでも戻りたいんだ。






「どうした、マル。」


うぅぅん。あのね、ポカポカするの。


「ポカポカ?」


そう、ポカポカ。大蛇おろちにも見える? 私、光ってる。


「祝の力だ。」


清めと守りの力、だったよね。


「そうだ。」


どうすれば使えるのかなぁ。大蛇、知ってる?


「・・・・・・確か昔、祝人が言っていたな。祓いたいと思って手をかざすと、祓えると。」


じゃぁ、私。清めたい、守りたいと思いながら、手を翳せば良いのね。


「クゥゥン、クゥ。」 イッパイスクエルネ、マル。


マルなら必ず、出来るよ。祝はね、人でも犬でも、生きている全てを救えるんだって。僕はまだ仔犬だけど、大蛇と共に、マルを守るよ!





「なぁ、マル。何してるんだい?」


ソラに問われ、首を傾げた。何もない所に、手を翳していたことに気づき、慌てる。


「なんれもぉ、ないっ、お。」


「そうか。何でもないのか。」


コクンと頷き、ニコッ。


「まう、はぁ、なぁ、すぅお、うわくぅ、なたえっ。」


「そうだな。カエも、上手くなったぞ。」


マルとカエが見合い、ニコッ。ソラ、少し照れる。




マルは滝から落ちた。生きるのに疲れ、フラフラと吸い込まれるように、真っ逆さま。繰り返し虐げられ、心も体も、傷だらけだった。


カエは目の前で家族を殺され、返り血を浴びたまま叫び、心が壊れた。そして直ぐ、顔を掴まれ、土に叩きつけられた。



二人とも、頭を強く打っている。長い間、話さなかったのではなく、話せなかったのだ。舌が思うように動かず、どもってしまう。


良村よいむらの人たちは皆、知っている。だから決して、揶揄からかわないし、見下さない。好きこのんで、こうなったんじゃない。それを嫌という程、解っているから。


頭は打っていないが、言の葉が出ない子もいる。


少しづつ話すカエたちを見て、話したいと強く願うようになれば、話せるようになるかもしれない。


それまでは焦らず、見守りながら待つだけ。


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