6-58 強く願えば
体が重い。頭が痛い。偶に、指がビクッと動く。喉が渇く。つい先、水を飲んだばかりなのに。
鷲の目から聞いた。あの耶万が隠し持っていた薬、いや毒が砕けて、粉になった。それが風に乗って、風下にいたオレの元へ。
ほんの少しでも、死に至る。そういうモノを、吸い込んでしまったと。
息苦しさを感じて直ぐ、犬が吠えた。もし気付くのが、ほんの少しでも遅ければオレは・・・・・・死んでいただろう。
動けるようになったら、干し肉をやろう。命の恩人、いや恩犬だからな。
良く、なっていると思う。体は動かないが、頭は動く。
もし、このまま木菟を止めることになったとしても、悔いはない。オレは、出来る限りの事をした。叶うなら再び、飛びたい。高く、高く。
生まれ変わったら、鳥になりたい。鷲や鷹のように、昼間に飛ぶ鳥に。木菟も良いがな、夜は眠りたい。
「木菟、水だ。震えているが、寒いか?」
「い、いや。さむ、くは、ない。」
そうか、オレは震えているのか。この山は冷えるからな。でも、寒くないんだよな。
副作用、だったか。薬には害を齎すものがあると、ブラン様が。
死ぬのかなぁ、オレ。霧雲山に、戻りたい。魂だけになっても、這ってでも戻りたいんだ。
「どうした、マル。」
うぅぅん。あのね、ポカポカするの。
「ポカポカ?」
そう、ポカポカ。大蛇にも見える? 私、光ってる。
「祝の力だ。」
清めと守りの力、だったよね。
「そうだ。」
どうすれば使えるのかなぁ。大蛇、知ってる?
「・・・・・・確か昔、祝人が言っていたな。祓いたいと思って手を翳すと、祓えると。」
じゃぁ、私。清めたい、守りたいと思いながら、手を翳せば良いのね。
「クゥゥン、クゥ。」 イッパイスクエルネ、マル。
マルなら必ず、出来るよ。祝はね、人でも犬でも、生きている全てを救えるんだって。僕はまだ仔犬だけど、大蛇と共に、マルを守るよ!
「なぁ、マル。何してるんだい?」
ソラに問われ、首を傾げた。何もない所に、手を翳していたことに気づき、慌てる。
「なんれもぉ、ないっ、お。」
「そうか。何でもないのか。」
コクンと頷き、ニコッ。
「まう、はぁ、なぁ、すぅお、うわくぅ、なたえっ。」
「そうだな。カエも、上手くなったぞ。」
マルとカエが見合い、ニコッ。ソラ、少し照れる。
マルは滝から落ちた。生きるのに疲れ、フラフラと吸い込まれるように、真っ逆さま。繰り返し虐げられ、心も体も、傷だらけだった。
カエは目の前で家族を殺され、返り血を浴びたまま叫び、心が壊れた。そして直ぐ、顔を掴まれ、土に叩きつけられた。
二人とも、頭を強く打っている。長い間、話さなかったのではなく、話せなかったのだ。舌が思うように動かず、吃ってしまう。
良村の人たちは皆、知っている。だから決して、揶揄わないし、見下さない。好き好んで、こうなったんじゃない。それを嫌という程、解っているから。
頭は打っていないが、言の葉が出ない子もいる。
少しづつ話すカエたちを見て、話したいと強く願うようになれば、話せるようになるかもしれない。
それまでは焦らず、見守りながら待つだけ。




