6-55 御手並拝見
ブランは考えていた。
耶万が作り出した薬。あれは、エジプトから伝わった花の毒とは、違いすぎる。他の毒と合わせ、成ったものだ。
思うような出来になるまでに、どれだけの命が奪われたのだろう。
谷に落ちた男、あれは助からない。自ら望んだのか、強いられたのか。何れにせよ、人には戻れない。
生まれ持ったものなのか、持ち堪えたのか。一度、人を止めれば、死ぬまで・・・・・・。
人の姿をしていても、人では無い。考えようにも、考える頭が無い。渇きに耐えられず、溺れる。
逃げて、逃げて、逃げて。生きているのか、死なないでいるのか。死んでいるのか、生きられないでいるのか。
人は愚かだ。弱くて醜い。脆いくせに強がって、力を求める。
弱いなら弱いなりに、脆いなら脆いなりに、頭を使って考えれば良い。大きな頭を持っているのに、使わないなんて。助け合って生きられるのに、奪い合うなんて。
カー様は仰った。アンリエヌの国を豊かにしたいと。争いの無い、和やかな国にしたいと。
全ての才を奪い、始まりの一族を粛清。大王からアンリエヌの統治権を奪い、王家を地下へ追放。王位は、大王から化け王へ移る。
その後、直ぐ厳命をくだされた。全、麻薬の売買および所持を禁ずると。
病や傷の治療での使用は、化け王管理下にある治療院でのみ、容認される。その量は厳しく管理され、容易に使用できない。
必要な分は、化け王城内にて製造され、城外での製造・販売および所持は固く禁じられている。
毒は薬にもなる。つまり薬は、毒にもなる。
どんなものでも、使いようによっては傷つけ、奪うことになる。それらを管理するのが、国であり王である。
やまと。広い、広い地。アンリエヌより、ずっと広い。化け王の才を以てすれば、決して実現不可能ではない。とはいえ、遠く離れた他国。
複数いる大王が争い、勝者になるまでに、気が遠くなる程、多くの血が流れる。
戦とは、殺し合い。勝っても負けても、命が奪われる。
為政者とは、民の命と暮らしを守るために存在する。にも拘わらず仕掛けるとは。しかも、麻薬を使ってまで。
それでも王か! 王なら王らしく、民を守れ。民あっての国だろう。それなのに、次から次へと。
「ブラン。」
「はい。」
「耶万で用いられた麻薬は、劇薬だ。微量でも、死に至る。吸い込まぬよう、常に風上で任を果たすように。」
「仰せのままに。」
劇薬、か。あの耶万、死ぬな。いや、おかしい。微量でも死に至るのに、息がある。
木菟の様子から、耶万は大量に用いたはず。とっくに、・・・・・・そうか。燃して用いる物が、砕けて粉となり、それを吸い込んだのが木菟。だから違っているのだ。
木菟の顔色が悪くなって直ぐ、犬が吠えて知らせた。耶万を捨て、風上へ避難。
良村の毒消しを服用。しばらく安静に、それから担がれ退避。風通しの良い木陰で休憩したことで、容態が安定した。
耶万は、煙を吸い込んだ。成分が変異。寧ろ、毒素が変異したと考える方が、自然か。鳥の頭では、これが限界。口惜しい!
両手足を縛られ、丸太に括りつけら、閉じ込められている。舟を重ねたとはいえ、閉ざされた空間。逃げられまい。
乱雲山、雲井社の祝。まずは御手並拝見。




